邂逅

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邂逅

 綺麗だな……。  夕日が川へ沈もうとしている。  俺はその光景を眺めていた。  平日の昼間からずうっと、今の今まで雄大な川の土手で足を抱えて座り込んでいた。  うっとうしい自分の感情をどうにか、こうにか収めようと。  その雄々しい川の流れだけを注視し続けていた。  ……ソイツの気配には気が付いていた。  いつくらいからだったかは定かじゃないけれど、隣に同じような態勢で座り込んでいた。  チラリと視界に入る、ソイツは緑色をしていた。  全身タイツか? 全体が緑一色であきらかにおかしい。  触れられそうなくらいすぐ近くにいるから横目では、はっきりと見えない。    どうしようかと、川を見ながら考えていると「なあ、河童っていると思うか?」急に間延びした声がした。  ビクッとして、声の主をみる……。  なんて勇気がなくてジッと固まっていた。  ……でも、俺に話しかけてきているんだよな? 不安におののきながら、ゆっくりと首を傾け座っているソイツに視線を向ける。    ギョッとして、腰を浮かして大声をあげた。    いるよ! まさにお前だよ!  とは言えず。実際には、ただただ驚き過ぎて……パクパクと口を動かすだけで声は出ていなかった……。  走って逃げようかとも思ったが、今の俺にはそんな体力がない。  ここ1週間、まともにご飯を食べていなかったから。  諦めて浮かせていた腰を草の上にストンと落とし、深呼吸をひとつする。  河童に見えるソイツは俺をジィと見ている。  頭にはしっかり皿らしきものがのっている。しかし、ややひび割れているように見える。  りりしく太い黒色の眉毛、目は大きすぎるまん丸で、鼻と口、いや(くちばし)? は童話などで見る河童そのもの。  ソイツは真剣な顔をしているようだ。 「なあ! 河童はいると思うか?」  先ほどより強い口調で問われてビクッと体が反応する。  流石に黙っている訳にはいかない。  なんて返事したら納得するのだろうか? もしや、気に食わない答えだったら殺されたり、ひどい目にあうのではないだろうか?  ここはひとつ、慎重にいこう。
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