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男は夜の繁華街の暗い路地で、ゴロゴロとごみ置き場へ転倒する。倒れた衝撃でごみ袋が破け、中から悪臭漂う液体が男にかかる。
追ってきた数人の屈強な男たちを力なく見上げる。
恐怖が無いのは、後悔の念が心を支配しているからだ。
あの別れの時、泣いて部屋を出て行くお前を追いかけていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。愛していると伝えていれば、今もお前はこの腕の中にいただろうか。
熱い涙が頬を伝う。破けたのジャンバーの胸元から折れ曲がり汚れボロボロになった雑誌を取り出す。
「ぐっ、詞依……、お前もこんな気持ちで俺のことを愛していてくれたんだな」
「うわ、何だこいつ、キメェー。急に泣き出しやがった。商品盗まれて、困ってるのはこっちだぞ!」
「今藤しよりの写真を握りしめてやがる」
「相変わらず情緒不安定で、こえーよ」
汚れて真っ黒な服を着た男は、自慢するかのように呟く。その目にはいつの間にか力が宿っている。
「これは、俺の恋人なんだ」
「んな、わけねーだろ! トチ狂ってんのか。毎回唐突にその話始めやがって! この万引常習犯がっ!」
男たちは、「今度、万引したら容赦無く通報するからな!」と倒れているぼろ布のような服をまとった男を何回か蹴ると、ぺっと唾を吐きそのまま夜の繁華街へ去っていった。
「詞依、もう許してやるから、俺の元へ戻ってこい……」
男は血走った目で一人の女性の写真が載っている週刊誌を握りしめながら、ごみ袋の中で身体を丸めて動かなくなった。
◇
いつもの朝の風景がここにはある。
一歳の娘に少し苛立ちながら朝ごはんを食べさせている妻、あーあーと意味のない音を発しながら、バタバタと手足を動かす娘。
特に何の感情もなく、テレビのニュースを見ながら、味噌汁を飲む自分。
日常という型に緩く縛られて、通り過ぎていく日々は、安心で少しだけ退屈である。
工藤慶人は、三十代のサラリーマンである。普通に結婚して、子どもができて、都心から一時間、最寄りの駅からバスで二十分の持ち家に住む。
出世の野望もなく、ほどほどの人生を過ごしている。
「次は、カンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞の受賞のニュースです。佐藤監督の……」
映画か……。最近ほとんど観てないな。最後に観たのは一体いつだったか。
焼き鮭に箸をつけ、ご飯とともに口に入れる。
仕事と子供の世話に忙しく自分の時間は無い。住宅ローンの返済や養育費で自由に使える金は少なく、映画館からは遠ざかっていた。
ぼんやりと考え事をしていたせいか、魚の骨が歯に挟ってしまった。
爪楊枝を手に取った所で、久々に聞く名前に動きを止め、思わずテレビの方へ顔を向ける。
「さて次は主演の今藤しよりさんのインタビューです」
こんどう……しより?
慶人は、画面に映ったかつての恋人の顔に「え! 嘘だろ」と驚きの声を上げた。
「なあ、由香里、この女優って有名なの?」
「ああ、今藤しより、知ってるよ。映画にしか出演しない女優さんよね。結構有名かも。この受賞した作品も監督が直々に出演をお願いしたらしい」
「俺の元カノだよ。大学の時、詞依と付き合ってたんだよ」
「はあ? 夢でも見てるの? そんな話聞いたことなかったけど」
「いや、たった今思い出したんだよ。だいぶ前のことだから、すっかり忘れていたよ」
「また変な妄想? 馬鹿なこと言ってないで、遅刻するわよ」
由香里は、慶人に背を向けると「パパは、また嘘ついてまちゅねー」と再び娘に向き合う。
本当のことなのに、嘘だと言われて慶人は少しだけイラッとする。
時計を見ると家を出なければならない時間だったので、慌てて立ち上がる。バスを一本でも逃せば遅刻だ。
「あ、ゴミ、持っていって。今日、ゴミの日だから」
「分かった」
不機嫌にゴミを掴むと、いつも通りゴミを捨てながらバス停へ小走りで向かう。
何でもない朝の風景だったが、慶人の心は妙に興奮していた。あの近堂詞依が世界でも有名な女優今藤しよりになっていたなんて。
(俺が、あいつの初めての彼氏だったんだ。あいつは俺の彼女だった)
詞依と付き合い出したのは、高校の卒業式で彼女から告白されたことがきっかけだった。
特に接点も無かったが、その時彼女もいなかったし、演劇部の綺麗な子だったので、軽い気持ちで承諾した。
詞依は、尽くすタイプの女で、安心して付き合えた。こちらのわがままにも付き合ってくれるし、うるさいこともあれこれ言わなかった。
何度か他の女との浮気がバレて口論になり、卒論や就活に忙しくなった頃、煩わしくなって自分から振った。
懐かしいな……。青春だったな。
大学では演劇科に通っていて、小劇団に入ってあちこちで公演に出ていたあの元カノが、今や有名女優になっているなんて。
(あの時、俺の浮気に傷付いた詞依を追いかけていれば、別れなかったのかな。そして俺は、今頃有名人の夫だったのか。勿体無いことをした気分だ)
テレビでインタビューを受ける詞依の洗練された美しい笑顔、自信溢れる受け答え、昔よりもしなやかでスレンダーな体形。かつて抱いた詞依の裸体を思い出し、股間がぴくりと反応する。
(あんないい女になるなんて。あいつの初めてを散らしたのは俺だ。俺が男を、あの有名女優に教えたんだ)
何とも言えない優越感が、心の奥から湧き上がる。
今日ばかりは、真っ直ぐ立っていられないほどの満員電車も全く苦に感じなかった。
数日後、そろそろ帰国した頃だろうと、スマホのアドレス帳へ登録されたままになっていた番号に電話をかけてみる。しばらく呼び出し音が鳴った後、「はい」と女の声が聞こえた。
「俺だよ、慶人、工藤慶人。久しぶり」
大女優は、初めての彼氏である自分からの電話でどういう反応をするのか。興奮を隠しきれず、食い気味に話し出す。
「なあ、元気だったか、詞依? ニュース見たぜ、お前すごいんだな」
しばしの沈黙の後、無言で電話は切られた。
「くそっ! 何だよ。せっかく俺から連絡してやったって言うのに」
その後何度も電話したが、繋がることはなかった。呼び出し音だけが虚しく鳴り響いていた。
◇
『慶人君、私、今藤しよりとして、今度舞台デビューすることになったの。藤の花が咲く頃に生まれたから、本名の近堂にかけて今藤にしたんだ。慶人君の工藤とも被っているから嬉しいな』
嬉しそうに言っていた大学生の時の詞依を思い出す。
(何だよ、まだ芸名に俺の苗字を一文字入れているくせに。未練があるんだろ。俺のこと、待っているんだろ)
片道一時間半の出勤、いつものルーティンワーク、家に帰り、妻と娘と過ごす、変わり映えのない毎日。そこに突然現れた、詞依という存在。
彼女の存在は、砂漠のオアシスのように慶人の心を癒した。
朝起きて、ニュースやSNSを検索して彼女の動向を探るのが日課になった。どこにいるのか、何をしているのか、誰といるのか、気が済むまで調べる。
SNSの公式アカウントは全てフォローし、一番でコメントを残す。できるだけ自分に気がついてもらえるようにヒントを入れるのも忘れない。
それなのに……。一向に彼女からのレスどころか、連絡も来ない。
そんな状況にイライラし、日に日にコメントが激しくなっていく。
だって仕方ないだろう? こっちが折れてやって連絡してるのに、何も返事をよこさないんだから。
『俺のこと馬鹿にしているのか、この雌豚が』
『お前の初めての彼氏だって言っているだろ!』
『さっさと連絡しろよ。寛大な俺様が、ここまでしてるんだ。誠意を見せろよ!』
『お前の家、知ってるんだからな。どうなるか分かってんのか!』
『さっさとやらせろよ!』
発言が過激過ぎたのか、全てのSNSアカウントからブロックされてしまった。しかし、何度もアカウントを作り直して、誠心誠意コメントを残した。
あまりに無視されて悔しくなり、過去に撮った写真を週刊誌へ送ったが、何の連絡もないし、ニュースにも出ない。
娘を寝かしつけながら、スマホでネットニュースを検索する。何も……ないか……。
娘が寝た後、がっかりしながら、リビングへ戻ると由香里が色気のない家着のスウェット姿で近付いてくる。
「ねぇ、慶人ぉー」と言いながら胸を押し当ててくる。
これは今夜エッチしようのお誘いだ。正直言って、詞依以外の女は眼中にないが、ストレスが溜まっていることは確かだ。金もないし、こいつで一発抜いてスッキリするか。
慶人は由香里へ肯定のキスをする。キスは夕飯で食べたキムチの味がした。
「もう……がっつきすぎ……んんっ」
(お前にがっついてるわけじゃ無いんだけどな。結婚前はもうちょっと身なりに気を使ってたのにな。詞依と同い年なのに、ただの欲情したおばさんは見苦しいな……)
夫婦の寝室へ移動すると、部屋を暗くする。これなら姿がよく見えない。
これは詞依だ。今ここにいるのは、テレビで見たあの女優だ。自分に暗示をかける。
慶人は前戯もそこそこに、乱暴に挿入し、激しく腰を振りまくる。
(詞依、詞依っー、しよりっー!)
今までに無い快感が背筋を走り、由香里の中で一気に爆ぜた。まるで本当に詞依としているように思えた。
「ねぇ、今日すごかったわ……」
「……そうか、良かったな」
背中にまとわりつく由香里を適当にあしらい、賢者モードの慶人は再びネットニュースを漁り出した。
スマホの青白い光が、寝室の暗がりの中で慶人の顔を照らしていた。
◇
出演した映画が、パルム・ドールを受賞した後、変な人から絡まれることが増えた。
登録にない番号からの怪しい電話も増えた。
事務所が運営しているSNSのアカウントには元彼だとか、ヨリを戻そうと言う人物が頻繁にコメントを書き込むようになった。
一人なのか複数人いるのか分からないが、その中でも特に自分の高校時代のエピソードを書き込む要注意人物がいた。
「また、こいつ?」
「うん。この人、私の元彼って主張して、高校や大学時代のことを書いてくるんだよね……」
詞依は、脚本家であり、大学の演劇科時代から付き合っている向原七曜を振り返る。
「元彼って……、詞依の彼氏は今も昔も俺だけなのにな」
「劇団員だった時も、出待ちされて、知らない男の人から今日何食べようか? とか誘われることが多かったし……。恋人になったつもりなのかな……」
「自分が詞依と付き合っているって、勘違いしてるとか?」
「うーん。存在が身近過ぎるのかな……。親近感があるっていうのはいいことだけど」
「ファンでも、ガチ恋勢はちょっと危ない所があるよな……」
七曜は、心配そうに詞依をそっと後ろから抱きしめる。詞依は七曜の香りに包まれて、ざわざわと落ち着かない気持ちが穏やかになるのを感じる。
「この流れで言うのは、どうかとも思うんだけど……。結婚しようか? こういうことも少しは減ると思うし、俺も大々的に詞依のことを守れるし……さ。何よりも、堂々と一緒に過ごせるだろう?」
突然のプロポーズに胸が高鳴る。彼とは一生結婚できないものと思っていた。
「いいの? 七曜、結婚しないって言ってたじゃない」
「詞依のことを愛している。けれどその愛は法律に縛られるものじゃない純粋なものだって、思っていた。でも流石にこの状態は心配なんだ……」
「七曜……、ありがとう」
◇
「はぁ! 嘘だろ」
慶人は、ニュース速報を見て、怒鳴り声を上げ、机をダンッと力いっぱい叩く。
『今藤しより、十年愛、人気脚本家の向原七曜と結婚』
慶人は会社の自席でネットサーフィンをしていた。机は書類の山、メールは未読のものばかりだったが、今は仕事をしている場合ではない。
(俺との結婚を諦める必要なんてないんだ……。直接話をしないと。俺もあいつと別れるから、もう一度やり直そう、詞依!)
椅子の背にかけていた量販店のスーツのジャケットを手に取り、カバンを持って出かけようとすると同僚に声をかけられる。
「おーい、工藤、課長が呼んでるぞー」
「何だよ、これから外出するんだけど」
「お前、やばいぞ。最近成績悪いし、遅刻早退が多いだろ? 課長がお怒りだって。すぐ行った方がいいよ」
「うるさいな、今はそれどころじゃないんだよ!」
しつこくつきまとう同僚を強く突き飛ばす。突き飛ばされた同僚は転倒し、バンと大きな音を立ててキャビネットに背中を打ちつける。
突然のことにざわつく他の社員を無視して、慶人は外へ出る。
電車を乗り継ぎ、通い慣れた道を急ぐ。
最近はネットの情報を追うだけで飽き足らず、映画やCMの撮影現場、イベント会場、舞台挨拶など様々な場所へ仕事の合間に出向いていた。
詞依の一人暮らしのマンションへも数日おきに行っていた。
次の映画撮影まではオフのはずだから、今日は家にいる可能性は高い。期待と緊張を胸に、オートロックの入口を他の人の後ろについて潜り抜ける。
詞依の部屋へ辿り着くと、勢いよくドアホンを押す。何度も押すが応答はない。イライラがつのり、ドアをドンドンと叩く。
誰も出てこない。
「おら! ここを開けろよ! いるのは分かっているんだ! 出てこいよ」
ドアの取っ手をガチャガチャと上下させる。押したり引いたりするが、びくともしない。
「俺が結婚してやるって言っているんだよ! 詞依、俺のことまだ好きだって知ってるんだからな!」
しばらくすると誰かが通報したのか、警察官がやってきた。その場で、厳重注意をされて、マンションから出されてしまった。
くさくさとした気分で家に戻ると、食べこぼしの染みが付いたスウェットスーツを着たすっぴんの由香里が娘を抱っこしながら、不機嫌そうに詰め寄る。
「会社から外出したまま戻って来ないって電話あったけど、一体何してたのよ」
「お前には関係ないだろ! 仕事に決まってるじゃないか」
由香里は、顔を怒りでゆがめ、慶人の肩を叩く。
「もう一人がお腹の中にいるっていうのに、会社をクビになるとか絶対に許さないんだから! しっかり働きなさいよ!」
由香里の大声に驚き、娘が泣きだす。自分を罵る妻と娘の甲高い鳴き声に気が狂いそうだ。
(……うるさい。うるさい。うるさい! 俺はATMじゃねえんだよ!)
もし別れ際の駅のホームで泣く詞依の背中を追いかけて、もう一度やりなおそうと優しい言葉をかけていたら、こんな未来はなかったはずだ。
くそっ! 今頃、都内の高級マンションで夜景でも見ながら、二人が好きなワインを優雅に傾けて次回作について歓談していたかもしれない。
◇
翌日から、会社へ行くふりをして、詞依のマンションの近くを歩きまわる。マンションの入口を見張ることができる場所にある自販機の横に身をひそめる。
(俺の人生に関わるんだ。会社なんか行ってられるか)
詞依は大体誰かと一緒にいる。マネージャー、脚本家の男、または家族が一緒に常に付き添っていた。
でも一人でいる時が絶対にいつかあるはずだ。そう信じて、毎日ここの場所へ通う。朝から夜まであちこちをうろうろしながら、詞依を見張る。
そしてついにその日はやってきた。
慶人は、一人でいる詞依の姿を見つけると、興奮する自分を押さえられない。
「詞依、話を聞いてくれっ!」
エレベーターへ乗り込む直前に、中へ滑り込み、詞依を抱きしめる。
ああ、久しぶりの抱き心地だ。柔らかいし、いい香りがする。こんなに小さかったんだな、お前は。
「いや、やめてっ! 誰ですか!」
「俺だよ、工藤慶人だよ。同じ高校で、大学時代に付き合ってただろう? お前の好きな男だろ、なあ」
「知らない! いや、離して!」
今まで放置して悪かった。さみしい思いをさせたな。照れて胸の中で必死で暴れる彼女が愛おしい。
「お前の気持ちは全部分かってる。俺が受け止めてやるから素直になれよ」
「ひっ!」
エレベーターのドアが開く。詞依は、慶人の腕の中から逃げ出すが、脚がもつれてその場に倒れてしまう。
「静かにしろ!」
慶人は、立ち上がり逃げようとする詞依の胸ぐらを掴み、頬を叩く。パァンと音が響き、詞依が「きゃあああー」と悲鳴を上げる。
何度も強く叩いているうちに、始めは抵抗していた彼女もだんだんぐったりと動かなくなる。
彼女の美しい瞳からは、再会を喜ぶかのような涙が流れている。アイラインが涙で滲み、歪んだ彼女の顔に、胸が熱くなる。
有名になったからって調子に乗ってるのかと思ったが、再会を喜んでいるじゃないか。自分の気持ちに素直になれよ。お前は尽くしていればいいんだ。
ご褒美にキスをしてやろうと、顔を近づけた。
「君、やめなさい!」
再会を喜ぶ二人を引き裂く無粋な警察官が現れて、腕を背中へ捻じ上げる。関節を決められて、エレベーターホールの床へ倒された。
「いてーな! 何すんだよ! 俺の女だ! どうしようと勝手だろ!」
しばらく警察官と揉み合った後、かちゃりと音がして手首にひんやりとした感触がした。
慶人は手錠をかけられ、そのまま警察へ連行された。
他の警察官に助けられ、恐怖の表情を浮かべた詞依は無言で慶人を見つめている。
「詞依! 今なら許してやるから、またやり直そう。俺はお前のことが一番大切だって、気が付いたんだ! なあ!」
警察官が詞依の耳元で何かを話すと、彼女はふるふると首を左右に揺らす。
その後のことはあまりよく覚えていない。結局、不起訴処分になったが、週刊誌とSNSの情報から身バレし、会社はクビになった。
妻には離婚され、実の両親からも見放されてしまった。
どうしてこうなったのか。真実の愛を貫こうとしただけなのに、ただそれだけなのに。
◇
「大丈夫ですかー?」
うずくまっている男の肩を巡回中の警察官がポンポンと軽く叩く。ベタベタの脂ぎった髪、落ち窪んだ目、黄色の乾いた肌、ボロボロの汚れた服を着た男は、のっそりと無言で起き上がる。
地獄のような日々は続くが、死ぬことはできなかった。これは、あの時お前を追いかけなかった罪に対する罰だ。
いつか再会した時、今度は愛していると伝える。そう決めているから、この後悔と言う地獄の中でも生きていける。
詞依、あの日、あの場所でお前を追いかけていれば。
あの場所で……? どの場所で……だ? 分からない。どこで間違えたのか。
男が穴の空いた汚い軍手で、握りしめていた雑誌にはこう書かれていた。
『向原七曜・今藤しより、夫婦で紫綬褒章を受章。ストーカーによる暴行被害のトラウマを乗り越え、お互いに支えあいながら歩んだ十五年を振り返る』
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