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"何か"に追われる男
高田雄介は逃げ出した。決して後ろを振り返ってはいけないと思った。振り返ったら捕まる、捕まったら連れ戻されて、喰い殺される。
身体の底から逆流する恐怖に駆られて、彼のがっしりした2本の足は前へ、また前へと突き進む。たとえ行く先々が凸凹した岩肌の急な斜面であっても、草木が鬱蒼と生い茂った先の見えない森の中であっても、雄介はとにかく走り続けた。
追っ手の気配を感じなくなった時、雄介は漸く安堵した。いつ追いつかれるかもわからなかったが、ひとまず休憩だ。雄介はゆっくり休める場所、しかし追っ手にはすぐに気づかれない岩陰に座り込むことにした。
つい先ほどまで酷使した両足に、じわじわと熱を伴った痺れと痛みを感じる。荒い呼吸を繰り返しながら、雄介はぼんやりとした頭で、ここまでの事態に至る経緯を一つ一つ思い浮かべた。
何で、こんなことになってしまったのだろう。
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