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豪くんはリビングのソファを新しくすることにした。今のはひとり用だから、大きくてふたりでもゆったり座れるものに買い替えるらしい。
そうしたらリビングでも豪くんとゆっくり過ごせるようになるかな。
なかなかの値段のソファを「気に入った。これにする」と即決した豪くんは支払いや配送の手続きをしている。
その間、僕は待ち時間なので、ひとりショッピングモールの通路にあるベンチに座っていた。
「あの、すみません…」
ぼんやり座っていたら、突然知らない男の人が僕に声をかけてきた。清潔感のある茶髪にグレーのスーツを着た、社交的な雰囲気の人だ。
「このベンチに、黒皮のバッグ置いてありませんでしたか?」
「バッグ、ですか・・・」
僕がここに座ったときには何もなかったと思うけど…。
男の人が辺りを探している様子だったので、僕も一緒になって周囲を探した。でも、それらしきものは見当たらない。
「おかしいな、ないですね。貴重品も入ってたのに・・・」
男の人は困っている様子だ。何かしてあげたいけど…。
「あの、すみません、連絡先、交換させてもらってもいいですか? もしバッグが見つかったら俺に連絡くれますか?」
「あっ、はい・・・」
僕はポケットからスマホを取り出した。
「すごく綺麗な指ですね」
男の人は僕の手を取り、そっと撫でている。
「指輪なし。特定の相手はいない、か」
なんかぶつぶつ言ってるけど、なんだろう。
「とりあえず連絡先、教えてください。必ず連絡します」
え? おかしくない? もしバッグを見つけたら僕が連絡するはずじゃ・・・
「離せ」
僕の手に触れていた男の人の手を、いきなり現れた豪くんがパシッと振り払った。
男の人を豪くんが睨みつける。冷たい、見下すような目で。
「なんだ連れがいるのかよ」
男の人はチッと舌打ちして、そそくさと立ち去っていった。どういうことだろう。忘れ物のバッグは見つからないままで大丈夫なのかな。
「手続きは済んだ。凛、行くぞ!」
豪くんは僕の腕を引っ張りズンズンと歩いて行く。
ショッピングモールの人気のない場所に連れて行かれて、やっと腕を解放してもらえた。
「凛。なんであんなナンパ男に連絡先を教えようとするんだよ」
「ナンパ!? 違うよ、あの人はバッグをなくしてそれで一緒に探してただけで・・・それでバッグを見つけたら連絡して欲しいって言われて・・・」
「それならなぜお前の手をあんないやらしく触るんだ!」
「それは・・・」
僕もなんだか変だなとは思ったけど…。
「バッグをなくしたなら、公的な機関に行けばいい。なぜお前を頼る? そもそもあいつはバッグなんてなくしてない。あれはナンパの手口のひとつだ。善人ヅラして声をかけて、いけそうだと思ったらああやって誘うんだ」
「そうなの!?」
全然分からなかった。普通にバッグをなくして探してる人かと…。あれがナンパなの!?
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