あなたと話がしたいから 〜茶座荘の日常〜 5

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 愛那さんは最近良さげな喫茶店を見つけたのだけど、1人で入る勇気が持てずにいた。チェーン店なら平気なんだけど、個人でやっているお店は店の雰囲気もよく分からないから入りづらい、そう言っていたので、雨の日に迎えに来てくれたついでに一緒に行ってみることにしたのだ。  外から見ると確かに年季が入っていて初めてだと少し入りにくい感じもしたけど、一緒に入ってみたら店員さんも気さくな人で居心地のいい店だった。それからというもの、こうやって雨の日に迎えに来てくれたときはその喫茶店で一休みしてから帰るのがお決まりになっていた。 「ここ、ご飯も美味しいね。このラザニアすごく私好みだよ」 「ハンバーグもです。食べごたえあって美味しいです。あ、でも僕は愛那さんのハンバーグの方が好きですよ」  特に意識せず発した言葉だったけど、愛那さんはくすっと笑ってくれた。 「翔太くんは優しいね。あ、一口食べてみる?」  そう言ってラザニアをフォークで切り分けてくれた。僕は自分のハンバーグを小さく切って渡し、お互い食べ合っていると、少しだけ恥ずかしくなった。まるで付き合っているみたいに感じたから。  普段家でご飯を食べている時はみんな同じものだからそんなことはしないけど、たまに甘党な橙吾さんがケーキを何種類か買ってきてくれたときはみんなで一口ずつ分け合ったりしている。これはその延長線上なんだろうけど、外で、しかも2人しかいないと何だかデートしているような気分になる。  その後はいつも通り、コーヒーを飲んで家に帰ったんだけど、僕はそれ以来、何となく愛那さんのことが気になるようになってしまった。いや、本当はもっと前から意識している部分はあったんだけど、この日をきっかけに心の火が燃え上がったようだった。  僕にとって帰り道に喫茶店で過ごす時間がとても貴重な時間だった。だから、天気予報で午後から雨になると分かっていても、わざと傘を忘れてみたりもするし、家を出る時曇っていたりすると、『この後雨が降らないかな……』なんてことすら思うようになっていた。
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