36 最終回

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36 最終回

辺り一面が、白い世界に覆われた美術館。 なのに一歩その扉の中に入ると、雪が反射してキラキラと輝く光に包まれた、温もりに溢れている。 二人で手を繋ぎ見つめるのは、あの絵。孤独の中に灯るオレンジ色の光は、お互いの温もりのようだ。 「俺……益々この絵が好きになった」 そう言う、外の雪に負けないほど透き通った白い肌の横顔。 出逢った時より、更に輝きを増している。 俺の視線が絵ではなく、優に向いていることに気づいた優がこちらを見る。 「………そんなに見ないでよ」 白い肌を、ピンクに染めながら照れる姿が愛しくて……… 俺は繋いだ手を離すと、その華奢な腰に手を回し引き寄せた。 「ち、ちょっと……誰かに見られるから」 「………見られてもいい」 「あのさ……俺、一応これからデビューするつもりでいるんですけど……」 「……デビューしても離す気はないから」 「…………」 「世界中に宣言してもいい。この可愛くて唯一無二の声の持ち主は、俺の大切な恋人ですって……」 少し俯いてから俺を見上げる優が、嬉しそうに微笑む。 「キスしてもいい?」 甘えるように尋ねると、ふわっと顔が近づいて唇に触れた。 「………今は……ここまで」 自分でしておいてさらに頬を染めた優は、俺の腕を腰からそっとはずし手を繋ぐ。 「二人きりになりたい……」 耳元で囁くと、強く手を引かれた。 「………本当はゆっくり見たかったのに」 そう口を尖らしながら、足早に歩く恋人。 このまま持ち上げて、直ぐに連れて帰りたいそう思った。 もう一度、この美術館に二人で来られるなんて……… 俺はもう間違えない。独りよがりな思いやりで、お前を泣かせることはしない。 「………思ってること、ちゃんと聞くから」 優の手を引きそう伝えると、驚いたように俺を見上げる。 花のように微笑んだ優の顔が、俺の耳元に近づく。 「………今日は……大和の家に泊まりたい……」 そう囁いた。 顔から湯気が出そうなほど赤くなった優が愛しくて、俺は出口に向かってその手を引いた。 当たり前だけど……… 言葉にしないと伝わらない 永遠に二人一緒にいるために それを胸に刻もう……… fin
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