Episode1 ピンチ

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Episode1 ピンチ

(誰か助けて)  ある日僕は、心の中で叫んでた。  僕は生まれつき、声が出せない。  つまり何か遭った時、自分の喉で、助けを呼ぶことができないのだ。 「俺からだって」 「駄目。今週一度も抜いてねぇから、俺がやる」 「いやマジでえろいよな。柳瀬(やなせ)」  飢えに飢えた、中高一貫校の男子高校生。  長く閉鎖的な空間にいるからか、トチ狂った奴らが紛れてる。  放課後のトイレで、冷たいタイル壁に三人がかりで抑え付けられ、奴らを見上げる。  お願いだから、正気を取り戻して。  やめてほしい。  どうして男同士なのにこんなこと。  何度も何度も思っても、僕の意見は通らない。 (こんなのって、生きてるって言えるのか?)  そう思っていても。  同じクラスの真田(さなだ)の腕が、肺で大きく呼吸する僕の腰上に伸びてきた。  無理だから!  訴えは目元がじっと潤むだけ。  悔しさで震える唇を噛み締める。 「涙目やべー!!テンション上がる」 「うわっ!真田ズリぃ。やっぱ変われ、俺からヤる」 「ぜってぇ、ヤダわ」  ケラケラと(わら)う奴らを睨みながら、手で思いきり目元を拭う。  せめて奴らが喜ばないよう、僕なりの必死の抵抗を示す。  まぁたとえ、涙を拭ってみたところで、何かが変わることもない。  伸びた手が、僕の右の腰骨を抑え付ける。  もう片方の手で、手早く露わにした自分のものを、僕の中へと充てがおうとする。 (嫌だっ!嫌だ!!!)  されたくない。  したくない。  好きでもない人間とのセックスなんて。  カタカタ震える握り拳を、真田の身体へ押しやって、嫌なのだと意思表示する。  震えるその手を掴まれて、 「怖がんなって、すぐ良くしてやるから。な?」  そう告げた真田の腰が上がる。 (挿れられる!!)  怖いのと気持ち悪いので、僕はギュッと目を瞑った。  ガンッ!!! 「「「「!」」」」  個室の扉が大きく鳴る。その場にいる四人全員の身体がビクリと揺れた。
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