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初のアプリ面談から帰宅し、スマホの写真フォルダを開く。チョコミントラテは加工でもしたように色鮮やかだ。その人工的な薄青緑は海でも空でもない、チョコミントにしかなれない色。……いや、チョコミント以外にも当てはまる存在がある。わたしはBlueさんとのトークルームに移動して、メッセージを綴った。今話している“好きな映画”の話に相槌と終結、展開を入れて。それから新しい話題を添える。
『今日、初めてアプリの人と会ってきました!やっぱり緊張しますね。その時のカフェのドリンクがBlueさんっぽかったので、写真を送ります』
返事は三時間後に来た。即レスの必要ない関係が楽である。
『えっ、めちゃ私wめちゃ美味しそうwあ、よければ私達も会ってみませんか?』
わたしは梓さんで懲りていないどころか、何かを取り戻そうとするように、YESの返事をした。
午後2時。駅構内のよく分からないモニュメントの下は、有名な待ち合わせスポットだ。改札方面から長い脚で颯爽と現れた彼女は、明るいチョコミントカラーの髪が周囲の視線を集めていた。
「こんにちは」
気怠い響きの低温ボイス。カラコンを入れているのか、日本人離れしたアイスグレーの瞳がわたしを射抜く。写真から想像はしていたが、ビジュアル系バンドで女子にキャーキャー言われていそうなその外見に、わたしは少女のように狼狽えた。
手頃なカフェに入ったわたし達は、遊びの無いメニューの中からアイスティーを二つ注文する。Blueさんはリアルだと口下手なのか、最初に少し挨拶をしたきりテーブルの上を見つめていた。その様子も神秘的で様になっている。……気まずい沈黙にどうしたものかと思っていると、あっという間に飲み物が運ばれてきた。Blueさんの攻撃力の高そうな爪が、少しでも気を紛らわせようとしているのかストローを弄び始める。ストローの紙袋をぎゅっぎゅっとおろして、綺麗に蛇腹になったそれが、トレーの端にコロンと横たわる。身をぎゅっと縮めて、動き出したそうにしている。
「水をあげないと、苦しそうですよ」
「え?」
Blueさんがわたしの言葉にポカンと顔を上げた。わたしは彼女の手元の“ストロー袋製イモ虫”を指差し、ストローで水をかけるジェスチャーをする。Blueさんは訳が分からないといった顔のまま、それでも素直に、スポイトの要領でストローの先に水をとると、イモ虫に二、三滴垂らした。
グニャグニャグニャ~。紙のイモ虫が水を吸って蘇る。その尺取虫のような動きに「うわっ、気持ち悪っ」とブルーさんは破顔した。驚く程あどけない笑顔に、わたしのどこかもグニャグニャ捩れる。
「面白いこと知ってるんだね」
「カフェで手持無沙汰になると、つい遊んじゃうんですよね」
「分かる分かる。レシートで折り紙したりね」
「鶴とか?」
そうそう、と言いながらブルーさんはレシートを使って、器用に折り目正しい鶴を誕生させた。首が長めで小顔の鶴はどこか作り手に似ている。わたしが「足付きの鶴っていうのもあるんですよ」と言うと、Blueさんはすぐにスマホで調べ、奇妙な蟹股二本足の鶴の画像にまた笑った。クールな印象を抱いていたけれど結構な笑い上戸らしい。可愛い人だなと思った。彼女が笑う度、耳元で大ぶりなピアスがゆらゆら揺れる。
「可愛いピアスですね。もしかして手作りの?」
「ありがと!そうそう、自信作!雨をイメージして作ったんだよね」
そう言って、彼女の細長く白く器用な指が、シルバーの滴を小突く。
「やってみたかったら教えるよ?」
「わたし不器用だからなあ」
「平気平気、結構簡単だよ。今度パーツ買いに行こ」
わたし達の次が確定した。
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