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「いや、なんでさぁ、そんな事になってんだよ」
久し振りに剣介に会う。
俺と桔平だってすれ違いでなかなかだったんだ、剣介と顔を合わせる筈もない、クリスマス以来で懐かしささえ覚えた。
「何が?」
俺にぴったりくっ付いて食事をする桔平が、剣介に冷たく訊く。
「それ」
「どれ?」
顎で俺達二人を指す剣介に、適当な返ししかしない。
いつもの桔平と剣介のやり取りに、俺はおかしくなって笑いそうになる。
「氷室さんとじゃなかったのかよ」
まだ、氷室さんと桔平が恋仲だと思っている剣介。
「んな訳ねぇだろ、俺は桃矢一筋だわ」
そんなことをしれっと言われて、俺の顔は真っ赤になるし、剣介の驚いた顔がまた凄かった。
「…… い、いつから、だったんだよ」
顔を低く近付けて、小声で訊く剣介の様子が可笑し過ぎた。
「いつからでもいいだろうが、てか、もう合コンなんてしないからな、ほか当たれよ」
「あっ、あったり前だろう! そもそも桔平と一緒じゃ全部持ってかれるしなっ!」
桔平に言い返した剣介が、口を尖らせて恥ずかしそうに、何故だか顔を赤らめている。
「なんか… まぁ…… お似合いだな、って言うのも変だけどよ… なんか、良かったな、桃矢…… 」
そんなことを言うから、俺は目が真ん丸くなる。
俺と目が合った剣介が、へへっと笑って頭を掻いた。
「お前も頑張れよ」
すかさず言った桔平の言葉に、今度は怒りで真っ赤になったような顔で言い返す剣介。
「うるせぇなぁっ!俺は四六時中頑張ってんだよっ!でも彼女が出来ないんだよっ!」
「気の毒だな」
二人の変わらない、乱暴だけど楽しい会話に途轍もなく安心して、思わず笑みがこぼれた。
『ホテルハイルミネ』では、すっかり知れるところとなった俺達の間柄、休憩から上がるのだって一緒に食堂を出る、しかも桔平はいつも俺から離れず腰や肩を抱いている。
「いつもアツアツのお二人だねぇ〜」
前から氷室さんがやってきて、にっこりと笑顔を見せた。
「お陰さまで…… 」
桔平が頭を下げると、恩着せがましく氷室さんが続けた。
「俺の作戦もなかなかだろう? 」
桔平と二人くっ付いて、俺と、氷室さんが想いを寄せる男性にヤキモチを焼かせようという作戦を言っているようだった。
「…… あれは完全に裏目に出ましたけどね」
桔平が少し怒ったように言ったけれど、そんなのお構いなしの氷室さん。
「そんなことはないよ、今の君達の様子が全てを物語っているだろう」
満足気。
「氷室さんは、どう、なん……です… ? 」
訊きづらそうにして、一旦俺の腰に回した手を離した。
氷室さんの恋愛の話しは聞かないから、その人と、どうにかなっている訳ではないのだろうと思えた。
どうにかなっていたら、きっと噂が耳に入っている筈だから。
「まぁ、俺のあの作戦が功を奏したみたいでな、あと一歩だ、彼も俺が気になって仕方ないみたいなんだよ」
あの作戦で上手くいきそうなってるのか、あれで喜んだのは氷室さんだけだな…… 桔平と二人スン、となる。
というか、相手は誰なんだろう?
素朴な疑問。
でも訊ける筈もなく、氷室さんの行動を思い返してみたが、さっぱり分からない。
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