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「知ってるかい?人は天に還る前にある場所で『時』を待たなきゃいけないって。」
突然話しかけてきたのは一人の青年。
人間ではないのは確かだ。
体はうっすら透けているし、羽根だってある。
が、よくある天使の白い翼とは違って、その背には緑色の木の葉がびっしり茂っている。
羽根にはまぁ見えないこともないが…。
「知らないな、詳しく教えてくれないか?」
何故そう返したかはわからない。
どうせ夢だと思ったからか。
ただ今は、何となくその『お話』を聞いてみたくなった。
青年は優しく微笑み、話を続けた。
「人には皆『種』があってね、その場所で芽が出るのを待つのさ。たくさんの陽の光を浴びてね。すると背中に双葉のような葉っぱが生えてくる。そして雨が降る毎にそれは育っていくんだよ。」
「雨?」
「そう! 誰かの想いで降る雨。
けど悲しみだけじゃない。思い出やその人への優しい気持ちで降るんだよ。その雨で翼は育つ。恵みの雨だね。」
青年は掴めない私の手に触れ、真っ直ぐに告げる。
「だからさ、すぐに忘れようとか、気にしないでおこうとかしないで、ゆっくり空でも眺めて…泣いていいよ。」
サアァァァ…
風が静かに緑の翼を撫でる。
「それにね、誰かを想ってたくさん泣いた君がいつかその場所に来た時、雨が少なくても君の中の『種』はたくさんあって芽を出して育ってくよ。」
『天へ還るための翼がーーー』
「勿論、天へ還るためだけじゃないよ。」
「ーーーそうか…」
私は空を見上げた。
先日旅立った『彼』がいるだろう場所ーーー
「で、君はどうしてここに?」
「呼ばれたような気がしたからさ。
それと…恩返し、かなーーー。」
「え?」
振り返ると、緑の翼の天使は飛び立っていた。
それは私にだったのか、それとも『彼』にだったのか。
もう一度空を見上げると、少しずつ、私の雨が溢れだした。
そして願ったーーー
『雨よ降れ、優しく触れ。
君が自由に、高く羽ばたけるようにーーー。』
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