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第55話
そして土曜日の朝になった。今日から大輔は一泊で東京出張の為、瑠璃子は一人分の弁当を作り、バスで職場に向かった。
明日瑠璃子は仕事が休みなので、今日は仕事帰りに伊藤モータースの百合子と飲みに行く約束をしていた。そして明日の休日は、朝から大石が簡単な染織を教えてくれる事になっている。
大輔がいない淋しさを感じないでいいように、瑠璃子はあえて予定をいっぱい入れておいた。
その頃大輔は、車で新千歳空港へ向かっていた。
学会へは明日の朝から出席の予定だったので、前日から東京へ向かう事にした。そして今夜は、東京にいる恩師や医学部時代の同期との会食に出席する事になっている。
空港に到着すると、車を駐車場に停めてからすぐに搭乗手続きをした。
飛行機に乗り込むと、以前瑠璃子と飛行機に偶然乗り合わせた時の事を思い出した。あの時、瑠璃子は左側の窓際の席に座っていた。
大輔は途中トイレに行き、トイレから出ると機内の様子は一変していた。
前の座席には人だかりができており、機内がざわざわと騒がしくなっていた。
搭乗客の間で急病人という言葉が飛び交っていたので、大輔は急いで人だかりの方へ歩いて行くと、そこには心臓マッサージをしている瑠璃子がいた。
華奢な身体の瑠璃子が、小太りの男性の心臓を必死でマッサージしている様子は、とても健気だった。
当時を思い返しながら、あれからもうすぐ五か月が経つのか......大輔はそう思いながら、窓の外の景色を眺めていた。
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