雨の日のラーメン

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 その日はなんだか気分が乗らなくて、いつもは誰かと一緒に帰るのに一人で帰った。  帰り道の途中、工事現場に行き合う。そこにはお母さんが誘導棒を振りながら止めた車に会釈をしていた。おばあちゃんが言っていた。交通誘導員は暑い夏も寒い冬も関係ない。交通ルールを守らない車や歩行者に対しても乱暴になれない。それに危険も伴う。その仕事は私を養うためにお母さんが選んだ仕事だから、私だけでも優しくしてあげるんだよと。  知っているんだ。お母さんはできる限り私のわがまま叶えてあげようと、夢を叶えてあげようと楽ではない仕事をしている。色んな仕事がある中で雨の日しかお休みにならない仕事をしているんだ。  お母さんがこちらに気付いて誘導棒を持っていない手を振った。私も手を振り返す。お母さんの唇が動く。声は届かないけど、何と言ったかちゃんと分かる。 「気をつけて帰るんだよ」  分かってる。私も唇を動かす。 「お母さんもね」  やっぱりお母さんが大好きだ。工事現場の横を通って、寄り道せずに家に帰る。  家につくとおばあちゃんが夕飯の準備をしていた。 「ミユちゃん早かったね」 「寄り道しなかったから」 「そりゃ早いね。今日はハンバーグだよ」 「おばあちゃん、ありがとう。……ねぇおばあちゃん」  ランドセルをおろしながら、台所のおばあちゃんに尋ねてみる。 「雨を降らす方法ってある?」 「雨を降らす方法? てるてる坊主を逆さに吊るすとかあるけど迷信だよ?」 「それでもいいの。雨が降って欲しいの」 「おやおや」  おばあちゃんはそれ以上何も聞かなかった。  おばあちゃんだって気がついてる。雨が降ってほしい理由なんて。  おばあちゃんは夕飯の支度を終えて、お母さんが帰ってきてから帰り支度を始める。 「お母さん、いつもありがとうね」 「いいよ。家で作るかここで作るかの違いだからね」  おばあちゃんは、おじいちゃんと一緒に食べる分だけタッパーに取り分けて帰っていく。  お母さんと二人になった部屋でお母さんは私を笑いながら抱きしめた。 「さぁミユ! あれは何なのか白状しなさい!」  お母さんが指差したのは窓際の逆さまのてるてる坊主。 「さあ。教えなーーい」 「何か企んでいるな!」  頬ずりしてくるお母さん。私はへへと笑ってお母さんに耳打ちする。 「私ね、お母さんと作るラーメンが好きなんだ」  お父さんがいなくても、お母さんが料理下手でも、インスタントラーメンでも好きなことは変わらないんだ。 「お母さん大好き」  だから雨よ降れ。
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