僕勇者。魔王が菓子折り持って挨拶に来たんですが?

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僕勇者。魔王が菓子折り持って挨拶に来たんですが?

 タイトルの通りである。  勇者である僕のアパートに、敵である魔王が菓子折り持って挨拶しに来た。  ちなみに勇者は勇者でも、僕は駆け出しのレベル1の勇者だと言っておく。異世界転移してきたばっかり、初級魔法も使えないしお金もない超貧乏。こんな雨漏りするようなボロボロ木造アパートに住んでるあたりでお察しだ。 「挨拶が遅れて申し訳ありません。私が魔王です。あ、これつまらないものですが」 「ど、どうも?」 「一応言っておきますが未開封です。毒なんぞ入ってませんのでご安心ください」 「は、はあ?」  勇者を油断させて早々に潰そうという作戦でもないらしい。  というか、膨大な魔力を持ち、世界征服をしようっていう魔王がそんなセッコイ手を使ってきたらそれはそれで嫌すぎる。  困惑する僕の目の前、テーブルにお菓子の箱を置く魔王。部下も連れていない彼は、狭い部屋の中で大きくてムキムキな体を縮こませてちょこんと座っている。  なんかちょっとカワイイ。いや、それ以上にシュールだが。 「あの、僕達敵同士なんだよね?これから戦うんだよね?女神様にはそうしないと元の世界に返してもらえないって言われてるんだけど。あんた、世界征服しようとしてる魔王なんだよね?」 「まあ、一応。そういうことになってます」 「そういうことになってる?」 「私は世界征服なんか本当はしたくないんですよ。だって面倒くさいじゃないですか。嫌ですよ、世界中に目を配って統治とか政治とかするの。お城に引きこもってゲームする時間なくなっちゃうじゃないですか」 「は、はい?ゲーム?」 「でもやらないわけにはいかないんです、悲しいことですが。私もクソ女神……失礼、女神様に脅されてましてね」  魔王は遠い目をして語る。 「それもこれも、ぜーんぶ女神の趣味なんです。女神は、勇者と魔王が戦い、激闘の末に魔王を倒してハッピーエンドになるという王道ファンタジーの展開にこよくなく萌える人なんです。縮めると勇者✕魔王萌えなんです」 「待ってその縮め方は誤解招くからやめて」 「誤解も何もありません。女神は魔王受けに萌える腐女子も兼ね備えています」 「待って、ねえ待って?」 「そんな女神に目をつけられたのが私と貴方の運の尽きなんです。女神は理想の物語を展開させるため、地球から定期的に勇者役を引っ張ってきます。貴方、異世界“転移”なんですってね。トラックぶつけられて“転生”させられたんじゃなくて良かったですね、まだ帰るお家がありますよ」  マジで待ってくれ、ツッコミが追いつかない。  僕は頭を抱えるしかない。ラノベにありそうな異世界転移を果たし、不安ながらもこの世界のために真剣に戦おうと思っていた矢先に!
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