Ⅴユラの章【告白】

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「まさか、…本当にお嬢様? よ、…よくご無事で、…っ」 アンリの手からランタンが地面に転がり落ちた。涙を浮かべたアンリが信じられないものを見るように恐る恐るユラに近寄る。 「アンリっ、アンリも無事で良かった、…っ」 ユラもアンリに駆け寄り、二人は抱き合って互いの無事を喜んだ。 「アンリ、腰、…腰は大丈夫?」 「ええ、ええ。もちろんですとも、お嬢様」 最後に見たアンリは腰を強打し、立ち上がることにも苦労していたが、今はしっかり立って歩いている。痛みもないようだ。 良かった。アンリ、無事だった。 約束通り、鷹小路家で雇ってもらえたんだわ。 ユラは心の底から安堵した。 花御門家ではユラを庇うと、継母セイラに激怒される。アンリは何度もひどい扱いを受けてきた。 「ユラ、…? ユラだって、…っ!?」 「まさかそんな、…お義姉様はハイイロの餌になって死んだのよ!? 見るに堪えない無残な亡骸になって。ねえ、待って、クリス、…っ」 バルコニーからすごい勢いで、ドタドタと慌ただしくクリスとララが走り寄ってきた。 「た、…鷹小路様、この度はあの、…」 クリスに対面するのは婚礼前夜、花御門家で別れて以来。 何といっていいのか分からないまま、ともかく非礼を詫びようとユラが口を開きかけると、 「ユラ、…ユラっ、…ああ、ユラ、…っ」 ユラの姿を目にしたクリスは呆然自失の状態で、ユラの名前を呼び、奇声を上げながら大粒の涙を流すと、空を仰いでその場にくずおれた。 クリスは相当なショックを受けていたようで、ユラの胸は痛んだ。 「クリス様、あの、…」 号泣するクリスにユラが近づこうとすると、 「いいえ、クリス! 騙されてはダメよっ!!」 冷たく張り詰めたララの大声が庭に響いた。 いつのまにか、ララは猟銃を手にしている。 「ユラお姉様はハイイロの餌食になって亡くなった。クリスとの婚礼から逃げて、満月の夜に自らハイイロの餌になったのよ。ちゃんと葬儀も上げたじゃない」 「でも、…」 ララが、呆然と座り込んでいるクリスに寄り添い、諭すように話し出した。 「しっかりして、クリス。あれは、お姉様の顔をした人狼よ。人狼は人間を食べ続けると、人間に化身出来るようになると言うわ。あれは、お姉様を喰らいつくしたにっくき狼。更に若い娘を狙いに来たのよっ」 ララは猟銃を担ぎ上げると、 「…ララ? 何を、…?」 呆然とララを見るクリスを押し退け、 「覚悟なさい、ユラっ!!」 銃口をユラに向けて迷いなく引き鉄を引いた。 ダン、…っという鈍い音がして、硝煙が上がる。 「今度こそ邪魔させない。異国の乞食のくせに。死ねっ、死ねえええええっ、この手で葬り去ってやるっ」 興奮状態で狂ったように喚き続けながら、ララは手当たり次第に銃を暴発させた。
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