24.天狗の森と転校生

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「ひな()はもっと、自分(じぶん)(ほこ)るべきだ。あの(よる)、ひな()がふり(かえ)らずに(はし)ったから、(みな)(たす)かったのだ」 「で、でも、九里(きゅうり)くんだってルリさんと(たたか)ったんでしょ……?」 「あんなものは、(われ)九萬坊天狗(くまんぼうてんぐ)(てき)ではない。まあ……(すこ)(われ)()(あま)るところがあって、(にい)さまの(ちから)()りたが」  九里(きゅうり)くんはそう()うと、はずかしそうに(わら)った。  大人(おとな)みたいな言葉(ことば)(はな)すけど、(わら)うとふつうに小学生(しょうがくせい)(おとこ)()()わらない。 「九遠(くおん)さんは? いないの?」  わたしが()くと、九里(きゅうり)くんは(いま)(おも)()したみたいに()った。 「(にい)さまなら、長月(ちょうげつ)(さと)()ったぞ。天狗(てんぐ)(きつね)(あらそ)いに発展(はってん)したら(こま)るとかなんとかで、色々(いろいろ)やることがあるそうだ」 「じゃあ九里(きゅうり)くんはしばらく、この(もり)一人(ひとり)()んでるの?」 「うむ、そのつもりだ」  九里(きゅうり)くんはなんてことないように()ったけど、わたしはあの(ひろ)神社(じんじゃ)みたいな(いえ)に、九里(きゅうり)くんが一人(ひとり)()んでいるところを想像(そうぞう)した。  がらんとした和室(わしつ)に、九里(きゅうり)くんがひとりっきり。 「おばあちゃん」  わたしはふり(かえ)って、おばあちゃんの(かお)()る。  おばあちゃんも、わたしがなにを()いたいかわかってるみたいだ。  ふーっと(おお)きなため(いき)をついて、おばあちゃんが九里(きゅうり)くんを()る。 「お(にい)さんとやらが(かえ)ってくるまで、うちに()みな」  九里(きゅうり)くんの()(おお)きく(ひら)かれる。 「しかし、(われ)天狗(てんぐ)で……」 「二学期(にがっき)から学校(がっこう)(もど)るなら、その言葉(ことば)づかいも(なお)したほうがいいね。うちに()めば、人間(にんげん)のくらしも(すこ)しはわかるだろうさ」  それに、とおばあちゃんはつづける。 「(わたし)は、あんたの父親(ちちおや)居場所(いばしょ)()っているかもしれない」 「なっ……!」 「うちに()たら、くわしい(はなし)(おし)えてやるさ」  おばあちゃんはそれだけ()うと、さっさとふり()いて、(ある)いていってしまった。  九里(きゅうり)くんは、ぼーっとその()()ちつくしている。  わたしはちょっと(まよ)ってから、九里(きゅうり)くんの()をぎゅっとにぎった。 「ねぇ、もう一回(いっかい)転校(てんこう)して()ない? それで、その、わたしと(とも)だちのままでいてほしいなって……」  九里(きゅうり)くんが、まじまじとわたしを()る。  (おお)きかった()がゆっくりと(ほそ)くなって――それから満面(まんめん)()みになった。 「(かえ)るぞ、ひな()!」 「ちょっと()って! きゅうに(はし)らないで!」  これはわたし、花向(はなむけ)ひな()出会(であ)った天狗(てんぐ)(はなし)。  この(なつ)と、九里(きゅうり)くんのことを、わたしは大人(おとな)になってもずっと(わす)れないだろう。  九里(きゅうり)くんに()()かれ、()りながら天狗(てんぐ)(もり)をふり(かえ)る。  (たか)(たか)()(うえ)で、だれかがくすりと(わら)(こえ)がした。  ―完―
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