【第一章:離れても?】

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「それは間違いないな。いくら良いもの持ってたって、面接官の前で出せなきゃ半減どころじゃないし」  一次の発表があるまで、光は会うたびに「あまり感触も良くなかった。受かる気がしない」と口にして心配が絶えない様子だった。  流石に神経過敏になっていた彼に、「不合格ならどうするのか」とは訊けるはずもない。後に確かめたところでは、「一年は浪人する心積もりだった」そうだ。  彼は周囲に与える印象より学力は高いのだが、それでも優秀な人間が集まる試験に自信など持てなかったのだろう。  重圧に押し潰されそうにも見えた恋人をどうにか支えたいと俊也は気を揉んでいた。  光の姉の(かおり)は市役所職員で、まったく同一ではないものの地方公務員試験を突破した『先輩』に当たる。光の話を聞いていても、姉の存在や気配りが相当日々の助けになっているのは窺えた。    俊也には、メッセージ交換と週末に顔を合わせた際に不安を吐き出させて宥めるくらいのことしかできない。  それでも恋人がその時間を求めているのはわかっていたので、せめてそれくらいはしてやりたかったのだ。  香は俊也の親友である謙太郎(けんたろう)の恋人で、三人は大学の同級生になる。  光と知り合えたのも、俊也と謙太郎が所属するサッカーチームの試合の応援要員として彼女が弟を連れて来てくれたからだった。
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