三年後 1

1/1
58人が本棚に入れています
本棚に追加
/119ページ

三年後 1

 落ち葉を払って花を手向ける。  晴れた上空をトンビが舞っている。気温は低いが、海風が心地よい。  石には多良間絵里、多良間加奈子、そして川島浩一の名が刻まれている。 「誰もいないから少しだけいいよな」そう言って武男は火をつけた煙草を備えた。 「医者のくせによく煙草吸っていたわよね」  振り向くと麗奈が立っている。 「いつからそこにいた?」 「今きたとこよ」 「久しぶりだな」 「そうね。貴方から連絡が来たから喜んだのに、お墓参りとはね……ムードもへったくれもないわ」 「お前ここ、よく来るのか?」 「たまにね」 「そのパネライ、似合ってるな」 「ありがとう」  武男はコートのポケットからインク瓶を取り出した「これを川島先生に見せたかった」 「え? それって……」 「ああ、だからお前を呼んだ」 「どこでそれを?」 「あの八ヶ岳の仙谷の別荘、競売に出されていたんだが、やっと買い手がついてな。で、新しいオーナーが離れの物置を片着けていたら、いろいろ出てきたってわけだ」武男がインク瓶を墓石にかざす「万年筆は京子が持っている。だからこれも京子に渡すぞ」そう言って武男はインク瓶をポケットにしまった。 「いろいろ?」 「ああ、いろいろだ。南沢はレイプした女から学生証や免許証、社員証などを取り上げて、事後、記念撮影をしていたらしい」 「え? どうしてそんなことまでわかったの?」 「まあ話を聞け」武男が胸ポケットから手帳をとりだす。 「紙の手帳なんて、まだそんなの使ってるの?」 「おいおい、津島をみたろ? デジタルなんか使ったらケツの穴まで見透かされちまうだろ」 「まあね。でもあの子は特別よ」 「まあそれはそうだが」 「で?」 「ああ、そうだった、えっと、物置に隠された箱の中から……」武男が手帳に書かれたメモを読み上げていく「女子中学生の学生証が二枚、女子高生の学生証が十一枚、女子大生の学生証が三枚、女性の運転免許証が八枚、女性の社員証が一枚、保険証が二枚の計二十七人分。で、男子中学生二枚、男子高校生三枚、男子大学生二枚、男子の免許証が一枚の計八人分、更に、指輪やネックレス、時計、筆記具、眼鏡……等九十二点が保管されていた」 「へ? カラスみたいな奴ね」 「ああ、だな。九十二点のうち、男物と思われる品はほんの数点……つまり、奴はレイプした女性からは、学生証などの証明書とアクセサリーや持ち物など数点を奪い、男からは証明書+一点を記念品として持ち帰っていたと思われる」 「期待を裏切らないカスね」 「ああ、その中には多良間絵里、富永博隆、三枝京子、君塚有希のものもあった。後、お前が教えてくれた、レイプ事件のもみ消し、小林良子の学生証と西岡明美の運転免許証も発見された」 「戦利品てこと?」 「ああ。それについては田代香苗が証言した」 「田代が?」 「南沢達は女性をレイプした後、証明書を奪って記念撮影をしていた。大抵は動画も撮っていた為、脅しに使っていた」 「チクったら、拡散する……」 「そういう事だ。記念品については単に南沢の趣味だったらしい」 「男も?」 「奴らは憂さ晴らしに喧嘩を売っていたんだ。基本三対一だから、全戦全勝だった。奴らが襲う男は、まあその手の連中だから、警察にチクる奴はいない」 「柿崎凛子は?」 「柿崎のものは無かった」 「でも君塚有希の証明書はあった……のよね?」 「ああそうだ、運転免許証があったと聞いている」 「合意の元に付き合った女性の物は、無い……あるのは全てレイプした相手の物……」 「そういう事になるな」 「君塚有希については、殺してしまってもういない人間だから、記念として免許証を回収した……」 「たぶんな」 「て事は、全ての証明書と物品を持ち主に返せれば……」 「ああ、もう死んでいる人間、殺された可能性のある人物に当たるかもって事だろ? まあそこは当然、警察が調べているはずだ」 「でも、証明書は所有していなくて、記念品だけ持ち去られた人もいるかも」 「全ての物品を所有者に返すことは、たぶん不可能だろう。そもそもこのインク瓶だって、富永の情報が無ければ、絵里の持ち物だとわからなかった」 「じゃあボールペン!」 「あったよ。新品のパーカーのボールペンも」 「よかった……」麗奈が涙を流す。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!