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アビゲイル・ウエストは十五歳。明日から王立学園に入学する。
彼女には目標があった。半年前、家族の前でこう宣言したのだ。
「私、結婚は諦めた」
「アビー? 急にどうしたの」
「見ての通り、身長が伸びすぎたわ。これじゃほとんどの男性を見下ろしてしまうじゃない。小さくて可愛い令嬢がたくさんいるというのに、自分よりデカい男爵令嬢と結婚する人はいないでしょ」
「そんなことないわよ、アビー。人は見た目だけで結婚するわけではないのだから」
「もちろんそうだけど、正直言ってかなり険しい茨の道だわ。だからって結婚もしないまま実家にずっといるわけにもいかないんだし、職を持とうと思うの」
「職って……」
「王宮や上位貴族の家庭教師か、パーラーメイドね。家庭教師なら一生働けそうだし、接客担当のメイドなら背が高くても需要あると思うの」
「いいじゃん、そうしろよ。俺が当主になった時、働かない妹に家でゴロゴロされてたら嫌だもんなあ」
兄の軽口にムッとしながらもアビーは続けた。
「だから、学園で過ごす二年間は勉学に励み、家庭教師になれるよう頑張るわ。そしてあわよくば上位貴族の令嬢と仲良くなって、将来雇ってもらうのよ」
「すげえ、こんな野心を持って学園に行く奴もいるんだなあ」
「兄さま、茶化さないでよね。兄さまは将来が決まってるからいいけれど、私は切実なの。こんな背高のっぽでもいいと言ってくれる人を探すより、一人でも生きていける術を身に付けるほうが絶対、確実だわ」
「よく言った、アビゲイル。お前は本当に強い子だ。とにかく、幼い頃から体が大きくて力も強かったからなあ。マイクが小さくて弱々しかったから、二人が逆だったらと何度思ったことか」
自分に鉾先が向いてきた兄が反論する。
「なんだよ、ちょっと成長が遅かっただけだろ。今はアビーより高いじゃないか」
「ほんのちょっとだけね」
今度は兄がムッとしていた。
「ほんとにねえ、昔は取っ組み合いの喧嘩でアビーが勝ったりしてたものねえ。三つも年が違うというのに」
「まあ、さすがに今は兄さまのほうが力が強いけど、乗馬は私のほうが上手いわね」
「くそう。言い返せない……」
乗馬が不得手な兄は悔しがった。
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