*子供しかいない星*

6/6
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 森の木々がすっかり元気を取り戻したころ。天文学者はウロコを探し廻っていた。  あれ以来、ウロコは村に姿を見せなくなった。子供たちに訊いても、彼の行方を知っている者はいない。  森を一人で小迷(さまよ)っていると、あの大木を見つけた。その近くに、見覚えのある人影がある。 「ウロコくん!」  近寄ってみて、天文学者は言葉を失った。ウロコは目を閉ざし、両腕を上に広げて動かなくなっていたのだ。肩を叩いても、揺さぶっても、応えてくれなかった。足は地面に埋まっていて、髪は緑に変色している。  病気になってしまったのだ、と天文学者は思った。彼は大慌てで宇宙船に戻った。  医師がいろいろな器具でウロコを診るのを、工学者と天文学者が心配そうに見守る。医師は聴診器を外し、二人に伝えた。 「彼はいたって健康です。筋肉は硬まり、脳は縮み、耳も喉も着々と衰えています」 「全然ダメじゃないですか!」 「いえ、これでいいのです」  声を荒らげる天文学者に、医師が澄ました顔で言った。 「村に大人がいない訳が、やっと分りましたよ。この星の人々は、成長すると体が変化し、木のようになってしまうのです。私たちの周りに生えているのも、ウロコくんの両親や祖父母たちでしょう」 「そんなばかな。植物みたいに土から水を吸う宇宙人なんて……」  信じ切れない工学者に、医師は説明した。 「似たような生き物は、地球にもたくさんいますよ。フジツボは、幼いころはエビに似ていて元気に動きますが、成長すると岩などに貼りつき、姿も変ってしまいます。ホヤは、実はヒトなどの脊椎動物に近いなかまで、赤ん坊のときは魚のように泳ぎますが、岩を見つけると鼻先をくっつけ、動かなくなるのです。子供のころは足で駈け、大人になると根を張る異星人がいても、不思議ではないでしょう」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!