序章 まだ、はじまっていない、日常

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序章 まだ、はじまっていない、日常

また、夢を見ていた気がする。また、執事のような若い男性が何か言っている。なんだ?何を言ってー 「ーここは、夢野さ…はぁ、また夢野さんは夢の中か。月島さん、おこしてあげて。」 「はいはい。おい、ユメ!起きろー」 講堂の真ん中の席で堂々と突っ伏している夢野を、月島が揺さぶる。 ビクッと体を揺らし、夢野がまだ重たそうな目をして、顔だけ上げた。 「はい、私はまだ…」 「私?何言ってんだユメ?」 「あれ、俺何言ってんだろ」  少し口についていたよだれをふき取り、夢野は正面を向くと、夢野の座る席の二段下にある教壇から、恵美教授がこちらをにらんでいる。  夢野は夢から覚めた時とは違う意味でビクッとした。 「夢野さん、よっぽどテストに自身があるようですね。成績評価方法がテスト100%だからと言って、私の試験は毎授業寝ていて単位が取れるほど甘くないですよ」 「はい、わかって...ます」 少し肩を下げて、恵美教授はため息をつく。 「まぁいいわ。私の質問に答えられる?」 「えぇと…」  寝ていたのだから答えられるわけもなく、月島のほうを見るが月島も分からないようでこちらに目を合わせようとしない。 覚悟を決めよう。  帰ったら叱られるのか、と憂鬱になりながら 「分かりません!」 と堂々と言うことにした。 講堂中からため息やクスクス笑う声、半ば感心した声が聞こえた。
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