銀の犬と蒼い龍

1/6
172人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ

銀の犬と蒼い龍

「みんな、よく頑張ってくれたな。今回も怪我無く終わったし、客の入りも上々だった。さあ、今夜は心置きなく飲んで騒いでくれ!」  金色の酒がなみなみと注がれた杯を高く掲げたトーヤの言葉で、一座の宴が賑やかに始まった。この街での公演も今日が最終日。明日のことなど考えずにたらふく食べ、酒を流し込み、酔いが回ると歌って踊って……。いつもの楽しい打ち上げの光景だ。 「ハク、おいで」  ご馳走を食べてすっかりお腹が満たされたアイナは、足下で大人しく寝そべっている愛犬ハクに声をかけ外の空気を吸いに出た。まだ子供だからお酒なんて飲めないし、酔っ払いの相手をするのもそろそろ飽きてきたのだ。 「満月だねぇ、ハク。すごく明るいから夜でもお散歩できるね」  澄み渡った月の清らかな光が辺りを照らしていた。お喋りと熱気の籠った宴会場から出てきた体に、涼しい風が心地いい。  町の外れにポツンと建っている宿から少し歩くと広い草原に出る。見渡す限りの草の波。山ははるか遠くにその姿を見せるのみだ。  この町に来てから、ハクを散歩させるために毎日ここを歩いていた。だけど、それも今日で最後だ。 「走るよ、ハク」  アイナが声を掛けると、ハクは尻尾を振りながら喜んでついてきた。珍しい銀白色の毛を持つハクが飛び跳ねると、月明かりでキラキラと輝いてとても綺麗だ。  ひとしきり走り回ったあと、アイナは草の上にどさっと寝転がって夜空を見上げた。 「ああ、お腹いっぱいで走ったからちょっと苦しいや」    笑いながら呼吸を整える。ハクも走るのをやめてアイナの側に寄り添った。パタパタ動く尻尾のふわふわした毛がくすぐったくて気持ちいい。  アイナは十五歳。鳶色の豊かな髪を子供らしく高い位置で束ね、大きなグリーンの瞳は春の若草を思わせた。手足は長く細く、薄い身体付きは未だ少年のようであった。  生まれた時から父トーヤが座長を務める旅芸人一座と共に、諸国を旅して回っている。町から町へ移動して行く生活は気ままで楽しいが、同じ年頃の友達がいないことだけが少し寂しかった。 「でもね、」  アイナはハクのモフモフした銀白色の背を優しく撫でながら語りかける。 「お前がいてくれてホントに良かった。ハクに出会ってから、そんな寂しさも無くなったもの」  ハクはアイナに顔を向け青いつぶらな瞳でじっと見つめたかと思うと、急に頬をペロペロと舐めてきた。もう、やめてよ、といいながらアイナは笑顔でされるがままになっていた。  寂しいときはいつでもこうやって慰めてくれるハク。アイナにとってかけがえのない、大切な友達だ。 「そういえば、次の町へ行く途中でアルトゥーラ王国の近くを通るんだよ。お前の故郷。懐かしい?」    
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!