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そのまま優雅な足取りで支払いカウンターに向かう彼に、慌てて続く。
数歩遅れて隣に立つ。鞄からお財布を出そうとすると、私を制するように彼が手を上げた。
「ここは私が。もし娘と二人だけで外食をしていたらこんな気分だろうと、素敵な体験をさせてもらえたお礼に」
そう言うと彼はスーツジャケットの内ポケットから革の財布を取り出すと、止める隙もなく支払いを完了した。
そして隙も見せず優雅に店の外へ出て行く。私も追いかけるようについていった。
「ごちそうさまでした……あ、では、せめて名前だけでも教えてもらえないでしょうか? 私も知られてますし」
そういえば、ずっと話をしていながらこれは聞いていなかったことに気づく。
でも、昔のテレビドラマかおとぎ話みたいな台詞に聞こえて、少し恥ずかしい。
するとおじさまは、ああ、と思い出したように言うと、今度は名刺入れを取り出し、一枚を私の方に差し出した。
反射的に手を伸ばすと、彼の声がした。
「柴山景介と言います」
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