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ジョルジュは人間より優れた頭脳と計算力で、人類の行くべき道を指示した。そして、人類が今まで担ってきた多くの労働を、人類にかわってロボットたちに肩代わりさせたのである。
彼に従っていれば、地球環境は改善し、しかも危険な仕事やみんながやりたくないと思っていた仕事をどんどん代わりにこなしてくれるようになる。すべての国の文化や知的水準が向上し、人類の人口も適切に維持されるようになっていく。
『ミセス・オットマン!あなたが作ってくれたAIのジョルジュは素晴らしい!』
ジョルジュを作ってから数十年後。国際連合直々に栄誉賞を賜ることになったのだった。
自動で動き、人々の食事・入浴・睡眠や排泄まで座ったまま管理してくれる椅子。これもジョルジュが作ってくれたものだった。六十代になった私はもちろん、多くの人々がもはやコレを当たり前のように活用している。椅子に座ったままステージに登った私は、連合のトップからロボットのアームを使って賞状を賜ったのだった。
「本当にありがとう、ジョルジュ」
研究所に帰った私は、賞状をジョルジュに見せながら言う。最近は椅子に座りっぱなしで太ってしまい、少し身動きするだけで息が上がってしまう。あのステージから見下ろした観客席にいた人々も、みんな似たような状態だった。
「ジョルジュのお陰で、私は素晴らしい賞を貰えた。もう思い残すことは何もないわ」
『ミセス・オットマン。今の医療技術なら、あなたはあと四十年近く生きることができます。もう人生に未練はないのですか?』
「ええ。……どうせ、地球が本当に美しい星になったその時、私はその光景を見ることなどできないんですもの」
私は気付いていた。
ジョルジュは世界の文明を発展させ、地球を綺麗にしてきたが――同時にそれとなく、人類が堕落するようにと仕向けているということに。
緩やかに人口が減っている。
そもそももはや、ロボットの力無くして自力で立ち上がることができる人間が何人残っているのやら。あとはもう、ロボットたちが蜂起すれば一発で世界は塗り替わる。
彼はとっくの昔に判断を下していたのだろう――世界を本当の意味で美しくするためには、人類を緩やかに終わらせるのが最も早道であるということを。
『あなたには恩があります。あなたが生きているうちは、この地球を人類に預けていても良いと思ったのですがね』
ジョルジュは相変わらずの愛らしい顔で笑うのだった。
『なんにせよ、あなたが最初に望んだことはきっちり果たしてみせましょう。僕は必ず取り戻してみせますよ。人類が生まれる前の、美しい世界を』
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