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それから約二時間後。
芽依菜は康介と共にバーを後にした。
会計を払おうとしたものの、康介は今日はおごりだと言って譲ることはなく。結果的に、彼におごられる形になってしまった。
「俺、女性とあんまり飲むことなくて。楽しかったんで、その代金です」
彼はそう言うと、芽依菜の分まで払ってしまったのだ。
きっと、その言葉は嘘だろう。ただ、芽依菜に気を遣わせないために言ったに過ぎない。
あとは、そうだ。御曹司だから、ケチに見られたくなかったとか、そういうことだ。
その後は、あっという間だった。康介が捕まえたタクシーに乗って、少し離れたところにあるホテル街に足を踏み入れる。
芽依菜がホテル街に足を踏み入れたのは、生まれて初めての経験だった。だから、少しだけ心臓がうるさい。
視線を彷徨わせていれば、康介が適当な場所で足を止める。
「白岩さん。……ここで、いいですか?」
彼が芽依菜の顔を覗き込んで、そう問いかけてくる。……どこがいいとか、そういうの全くわからない。
そう思い、芽依菜はもうなるようになれと頷く。
「全部、お任せします」
にっこりと笑って、そう言うのが精いっぱいだった。
(これは一夜の関係。それ以上でも、それ以下でもない……)
自分自身にそう言い聞かせる。康介に腕を掴まれ、そのまま連れていかれる。
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