ビギナーコンビニスタッフ

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ビギナーコンビニスタッフ

 人生はじめてのアルバイト。面接で店長から、これからよろしくお願いしますと言われたとき、何のことだろう? と思ったのは黒歴史かも知れない。 「多田くんもコンビニは利用したことあるはずだから、思い出して接客してごらん」  小一時間、レジ打ちの説明を聞いて、さあ本番となったがどうしたって緊張はするもので。手慣れない手付きでバーコードを読み込み。八百九十円です。呟いてみる。お客さんは千円をトレイに乗せる。慌てて千と数字を打って会計締めのボタンを押して百十円取り出す。そこで止まってしまう。トレイには千円が乗せられたまま。どうするかと迷っているとお客さんが右手を差し出した。 「百十円のお返しです」  百十円を受け取ってお客さんはそのまま去っていく。 「うん。まず、いらっしゃいませは言おうね。お金が置かれたらいくらお預かりしますって言おうね。レシートは極力渡そう。ありがとうございましたを言うのも忘れずにね」  なんて注意されまくっていたのも二週間も経てば大分慣れて、一緒のシフトに入っている店長が細かいことを言うのも少なくなった。そりゃあまだまだ分からないことは多いけど、店長と雑談できるくらいには慣れた。  店長は面白い人だ。漫画とかアニメの話題を普通に吹っ掛けてくるし、俺からの話題で分からないのがあれば、これが格差か……とおどけてくる。仕事はバシバシするし、バシバシ吹っ掛けてくるけど、バイトの時間は楽しいものだった。  店長と煙草の補充をしながらお喋りをしているとその人は来たんだ。白髪を刈り上げた強面のおじいさん。 「いつもの」  この手合いは多い。新人であろうが知っていて当たり前だろという顔のお客さん。 「すいません。銘柄いいですか?」 「何だと!? 予約してんのに何で分からねぇんだよ!?」  すぐに店長が横につく。 「ショートピース二カートンですね。木原さん」  店長がカートンを入れている引き出しからショートピースを取り出す。そこには貼られた紙には『木原さん二カートン予約』と書いてあった。 「それでいいんだよ」  木原さんは、俺を睨んでから外へと消えていった。その背中を見ていた俺はふつふつと怒りが沸く。 「なんですか!? あの態度!?」 「まぁ気難しい方だから。木原さんはいつもショートピース二カートン予約なんだ。次は気をつけてね」  店長は困った顔をしたが、俺的には敵認定するには十分だった。  敵認定してみたものの、一月も経てばお客さんの傾向も分かりだす。やはり頑固なのは老人だ。特におじいさん。偏見かも知れないが、おじいさんはトラブルを起こしやすいように見える。使い慣れない加熱式タバコの文句を言ってきたり、ホットの缶コーヒーがぬるいと喚いてみたり。  店長を見ているとうまい具合に相手を立ててかわしている。他のスタッフではこうはいかない。見習いたいけど、俺がやったら失礼になる自信がある。どうしたものか。
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