三章:のえるの在処

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菖蒲が得心する一方で、もし恵流の推測が正鵠を射ているのだとすれば――。 「それって、さ。Aランクの解放者なら、のえるの力を借りれば誰でも物語の魔法を使えるようになるってこと?」 「誰でもは難しいかなぁ。さっきも言ったけど、僕のエフェクトのオーバクロックは対象の感情だけを参照していた所に僕の感情も加味する方向性で拡大解釈させたものなんだ」 「うん」と、菖蒲が神妙に相槌を打つ。 「応用で、僕の感情だけを反映させることも出来る。これまでは何方の効果が適用されるかは相手の心境に依存していた部分を、僕の方でコントロールできるようになったんだよね」 菖蒲の影響(エフェ)/効果(クト)の解放強度を下げられたのは、この応用によるものだった。 「今の僕は割と自在にBランクの解放者なら誰であってもAランクに引き上げられるし、Aランクの解放者なら誰でもBランクに引き下げることもできる。ここまではいい?」 「な、なんて親切な問いかけなんだ……一昔前の私なら簡単に本当は優しい人なんだって騙されてたね。あ、辛うじてついていけてます」 「僕が大人になるのは今回だけだよ」 にっこり。次はないという副音声が明瞭に聞こえた菖蒲は、もう余計な発言はしないと心に刻む。断じて前振りではない。 「肝心なのは、ただ解放強度を上下させるだけなら”路線の切り替え”で事足りるという点なんだ。むしろ、自分の意のままに効果を発揮させたいなら相手の感情は邪魔にしかならないからね」 「一方的な片思いなんて全くこれっぽっちも珍しくはないからなぁ……」 イリスはしみじみ呟いた菖蒲に漂う哀愁を幻視するがすぐに目を逸らして見なかったことにした。 「でも、菖蒲をSランクに引き上げたような効果を発揮する場合は片側だけだと足りないみたいなんだよね。そこで満を持して双方向の真価が発揮されるわけだ」 「お互いに好感情を抱いていれば、規格外の壁を破れる……?」 「その解釈で合ってるよ。ただ、その要求値が菖蒲の想像する何倍も高いんだ。何よりもまず僕が難儀な気質をしてるからね」 「ほ、ほう? つまり?」 「現状の僕の交友関係だと、菖蒲くらいしかSランクまで押し上げられないんじゃないかなぁってことだよ」 互いが互いを思い合っていても、それだけでは熱量が足りない。規格外の壁を溶かす熱もまた、規格外を超える熱を持つ必要があるのだ。 「要するに、のえるのアレは絆パワーが不可欠なのかぁ。それって何て言うか……うん。ごめんなんでもない気にしないで」
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