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先輩とうまくいっていないのだろうか…
いつも明るい深月さんの憂いた表情は珍しく、二人きりという滅多にない状況が俺を饒舌にした。
仕事のこと、最近見たドラマのこと、少し前に起きた殺人事件の容疑者が捕まったことなど、当たり障りのない話をした後に「同棲し始めたって?」と、憂い顔の核心へ迫る。
「…うん」
「それで…喧嘩でもした?」
「まぁ…そんなところ…」
「そっかぁー…」
それから喧嘩の理由を聞こうとしたが、コンビニの外に先輩の姿を見つけて俺は口を噤んだ。
「お待たせ…」
先輩の姿を見つけたのとほぼ同時に、急に背後から声をかけられて、俺らは二人揃ってビクッと肩を揺らした。
振り返ると、そこには浴衣姿の中屋さんがいた。
藍色に白い紫陽花を咲かせた浴衣に、小豆色の帯は大人っぽくて、中屋さんによく似合っていた。汗ばんでしっとりとした首に張り付いた後毛が艶かしくて、俺は思わず息をのんだ。
「可愛い!似合ってるよ」と、深月さんは満面の笑みで中屋さんを褒めた。
「深月ちゃんは…時間なかったの?」と、中屋さんは眉を下げる。
「そうなの、お局様がご立腹で帰してもらえなくてね…」
「そっか…」
一通り社交辞令的な会話を終えて、二人は同時に俺を見た。
何か俺からの言葉を待っているようだった。
"浴衣似合ってるよ"と言おうと「浴衣に…」まで言ったところで先輩が到着して、俺の言葉をかっさらった。
「おぉ~中屋、似合ってる可愛いじゃん!なんかいつもより艶っぽい!」と、中屋を褒めちぎった。
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