廃墟の振袖

1/8
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 じりじりと日光が肌をさす八月十日。私は和菓子屋を営む叔父の家に遊びに来ていた。目的は、同人誌即売会に参加するためだ。本当は東京でホテルを取りたかったけど、動き出しが遅かったせいでもう料金が高い宿ばかりしか残っていなかった。ネットカフェも高校生は深夜利用できない。そこで頼ったのが茨城に住む叔父の家である。私が小学五年生の時に会って以来だったから、実に五年ぶりの再会。 そして今は叔父の住む街をぶらついている。これにもちゃんと目的がある。大阪から関東に向かう新幹線の中、スマホでネットサーフィンしていた時のこと。叔父の家の近くに心霊スポットがあることを知った。オカルトマニアのあたしは早速ここに向かうことに決めたのだった。トートバックには小腹がすいたときように叔父からもらったデメキン型のたい焼きを入れている。叔父に「デメキンならタイじゃないじゃん」と言ったらスルーされた。夏なので痛む前に早めに食べないと。  すっかりさびれた街の一角。そこに、噂の廃墟はあった。沈みかかった太陽に照らされた白い建物の周囲には、不法投棄の家電が山積みになっていた。冷蔵庫に至っては数十台ある。これだけあれば扉を開くと別世界に……、なんてこともありそうだ。  辺りを見渡す。近くを通る国道はそれなりに交通量があり、ここでも車が行きかう音が他の些細な音を打ち消す。民家もあるが、人気がない。あたしは誰にも見られないように敷地内に忍び込む。錆びた匂いが鼻につく。電源が入っていないはずの扉の空いた冷蔵庫。そのそばを通ると、ひんやりとした風が肌に触れた気がした。やはりここは何かありそう。早まる心臓の音。この続々感がたまらない。最も、夜に訪れる度胸はないけれど。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!