廃墟の振袖

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 建物の中に入ると、じめっと蒸し暑い外とはうって変わり、乾いた空気になる。それまでべたついていた汗はスーっと蒸発し、少し涼しく感じた。こういう廃墟はじめじめしてそうなのに変だ。中は広いホールのようになっていた。縦約30メートル。横約10メートル。高さ約5メートルといったところだろうか。公民館にある小さな体育館くらいの広さだ。天井の中央部は吹き抜けになっており、そこから斜めに夕陽が差している。そこまで閉鎖空間ではないのに空気感がガラッと変わるのはやはり何かありそうだ。  地面は既に土が堆積しているようで苔も生えている。壁紙や天井の破片だろうか、その苔の上にまばらに散乱している。それらの破片以外はものがあまりなく、強いて言えば、茶色いテーブルの下に落ちている華やかな花の装飾がされた円柱状の物、そして、かつて主役の男女二人が座っていたであろう、白い布をかぶせられたテーブルがあるだけだった。周囲の壁は壁紙がはがれ、落書きにまみれている。  それからぐるっとホール内を見渡していると、先ほどまではいなかったはずの少女の背が見えた。あたしより背が低く黒のショートヘアで、ぱっと見は中学生くらいに見えた。黒い振袖を着ていて、どこかミステリアスな雰囲気。ここに来たということはあたしと同じようにオカルト好きなのだろうか。
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