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親バカ、シアンバカ
生まれて三ヶ月もすると、ほっぺはぷくぷくで、うひゃって笑う子になっていた。
「ねぇ、グラン、この子さ、なんとな~くだけど、前世とか覚えてたらどうしよ?」
僕がそうだからって、生まれた子までがそうだとは限らないし、いや、普通は無いよな。
「シアン、ぜんせって、どう言う意味?」
この世界に宗教は無かった。
神様とか奇跡って概念はあるけど、崇拝するとかそう言う考えじゃなく、あくまで特別な隣人って感じだった。
「うんとね、例えば生まれる前の人生って言うか、同じ命が器を変えて繰り返す的な?
僕達の所に生まれる時に、本当なら前に生きた世界や人生を忘れて新しく始めるのに、その前のことを覚えたままって言うか」
グランがうーん、と考え込んだ。
「私たちの子供だから、そう言う特別な事もあるんじゃないかな?
だってこんなに可愛いんだから、全てが特別に決まってるよ」
うん、それを世間では親バカと言うんだよ。
「明日は可愛いシアンと、可愛い息子のリュシアンと三人で結婚式を挙げるんだから、早く寝ないと体調を崩しちゃうよ、ね?」
明日はとうとう、皇帝陛下と皇妃様が主催した僕達の結婚式だった。
「今更、嫌だとは言わないけど、ちょっと、ね」
恥ずかしい、何か言われたらどうしよう、そんな気持ちで憂鬱になっていた。
「シアンは世界一綺麗で可愛いんだから、リュシアンだって同じだよ。
だから私が守るから大丈夫だよ」
グランは僕を甘やかすだけ甘やかして、オネムになったリュシアンを抱き上げるとベビーベッドに寝かせた。
「さあ、ここからは大人の時間ね」
そう言いながら、キスをされた。
実は、グランとはまだ、致していなかった。
結婚を決めた時には既に臨月近くて、そんな事をして良いのかさえ躊躇ったし、生まれたら生まれたで、体が回復するまではドクターストップだった。
「グラン、今夜はその」
「うん、しっかり寝て明日は早くから支度とか準備に追われちゃうからね。
リュシアンの体調も気をつけないと」
そうじゃない、そうじゃないんだ。
「そうだね。
あははは、早く寝よう~」
僕はいま、物凄く自分本位で贅沢な事で悩んでいた。
グランに抱かれたいって。
でも僕の体は中古だし、リュシアンを実子としてくれただけでもありがたかったのに、それ以上を求めたらダメだと分かっていた。
僕を抱き寄せて腕枕をする、そしてしっかりホールドされて眠るのが日課になっていた。
でも、僕の体は、正直ムラムラしてるし、こんな風にされたら期待もするし、お一人様すら出来なかった。
「おはよう、シアン。
リュシアンはミルクを飲んですっかりご機嫌だよ。
私たちも朝食にしよう」
きらきらの陽射しの中、更にキラキラした美丈夫が笑いかけ、寝起きがイマイチ悪い僕にその腕を伸ばして起こしてくれた。
「おはよ、グラン
天気、いいね」
昨夜は悶々として眠る所じゃなかった。
空が白み始めた頃に漸く睡魔が訪れてくれた。
この屋敷には侍従も侍女もいなくて、唯一庭師とシェフがいるだけ。
必要最低限の事をお願いして、後は僕が魔法か体を使って維持をしていた。
「ほら、早く起きて、今日は結婚式なんだから」
どちらかと言うと行きたくない僕は、グダグダとしてベッドから降りれなかった。
「シアン、抱っこしてあげるね」
「へ、あ!」
世に言うお姫様抱っこをされ、そのままバスルームへ、そして洗ってあげると言うのを固辞して、今、朝食を目の前にした。
「はぁ~、米食べたい」
「コメ?」
「ん、あぁ、えーっとパンとかの小麦にのだけど、粒のまま炊くんだ」
「ふーん」
ホテルの朝食の様なメニューはすごく美味しいけど、元日本人だからねぇ。
「探しておくね」
グランが出す言葉は完遂を意味している事は、この数ヶ月で理解していた。
こんなに良い男なのに、息子にデレデレで僕に甘々なんて、勿体なさすぎる。
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