アルティナ・ノーキンは病弱王子様を支えたい。

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 一部の令嬢からは甲高い悲鳴があがる。「きっとわたくしに違いないわ!」なんて声がそこかしこからする。  グランスティング王国は一夫一妻制なので、そんなに何人も婚約者候補がいるわけがないのだが。夢見るお年頃なのだ。  アルティナも、一年サリーのそばに仕えていてそんな話を初めて聞いたので、驚いている。  サリーは令嬢たちに目もくれず、隣に立つアルティナに手を差し出した。 「アルティナ。生涯を共に歩めるのはきみしかいない。主人と護衛ではなく、パートナーとしてそばにいてくれないか」  サリー、一世一代のプロポーズだ。  なんであんなゴ・リラが! という声があたりから聞こえるが、みんなアルティナの良さを知らないのだとサリーは怒鳴りたい気持ちになった。  いつも勇ましくサリーを守っているアルティナだが、予想外のことを言われて動転した。 「もしかしてそうなると私はもう騎士をできなくなるんですか!? 一生サリー様をお守りするつもりでいましたのに。そんな……」 「ショックを受けるところがそこなんだね。大丈夫。結婚した後も騎士でいていい。言っただろう。アルティナにはその格好がとても似合う」  騎士で王族の妻なんて前代未聞だ。はなからサリーの好きな相手を知っていた王と王妃、弟たちは拍手をするが、貴族の娘たちは阿鼻叫喚。 「なんでわたくしじゃなくてゴ・リラなんですの!?」 「わたしのほうがぜったい頭もいいし美しいのに!」  とまあ、すごい声が飛び交っている。  結婚後もそばにいて騎士をしていていいと言われたら、もう断る選択肢なんてなかった。  アルティナも聡明で努力家のサリーを素晴らしい人だと尊敬していたのだ。 「よろしくお願いします、サリー様」 「ああ。よろしく、アルティナ。次は舞踏会でなく、きみの好きな武闘会でも開こうか」 「ぜひ!」  グランスティング王国初の女騎士・アルティナがサリーの伴侶となったことで、「男はたくましく、女はつつましくあれ」という風潮は変わりつつある。  機知に富んだ男性がいてもいいし、先陣を切って戦う女性がいたっていい。  数年後、サリーが玉座を継いでからもアルティナは騎士の訓練を怠らずにいた。  ドレスでいる時間より、鎧を着ている時間の方が長い。    田舎育ちの騎士と王子がなぜ結婚に至ったのか。なれそめを聞かれたら、サリーとアルティナは決まって答える。 「筋肉を鍛えた結果です」  おしまい
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