こしば鍛冶と遣刀使

2/50
63人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
「荷台に転がしたのは申し訳ありません。目を覚ました時に元に戻っていなかったら、運転手の身に危険が及ぶのでやむなく……」 「いえ、それは私が悪いので。取り返しのつかない事故になったら、どんなに詫びでも足りませんよね」 「そうですね。それなら取り返しがつかないついでに、もう一つ。あ、その前に」  御子柴が刀磨たちに視線を移す。 「京極さんに連絡した?」 「いや、おまえがいるからいいんやないか?」 「そうなりますよねー」  初老の男性が答え、刀磨が首を振るのを見た御子柴は立ち上がり、居間の隅に置いてあったリュックから何かを取り出して戻ってくる。その手にあるのは名刺入れだ。 「自己紹介が遅れて申し訳ありません。僕、こういう仕事してます」  御子柴が男性に名刺を渡す。両手で名刺を受け取った男性は、一瞬眉を顰める。 「……遣刀使?」 「ええ、刀に関する怪異の調査を行っています。今回の件は調査の対象になりますので、事情聴取させていただきます」 「事情聴取って……」 「僕の身分が怪しいと思うなら、京都府警の方に確認してもらって構いません。きちんとした身分の人の方がよければ、京都府警の方に来ていただきますけど、どうしましょうか」  京都府警の人に連絡するために御子柴がスマホ片手に問えば、男性は勢いよく首を左右に振る。 「とんでもない! 私の話でよければ――」  アキ、と首を振り続ける男性の言葉を遮って初老の男性が口を挟む。その目が御子柴を向いているのを見れば、御子柴に声をかけたのがわかる。御子柴の名前は暁だ。 「あとは任せてええな?」 「ええ、夜霧丸は?」 「鍵かけて仕舞ったわ」  よっこいしょと立ち上がった初老の男性に続き、刀磨も立ち上がるとそろって居間を出ていく。 「しゃあない。仕事せな」
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!