こしば鍛冶と遣刀使

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こしば鍛冶と遣刀使

 作業場らしい建物と並んで立つ母屋は純和風で、玄関から入ってすぐ右手が居間だった。麻緒の家ならリビングというべきところだが、こちらはお茶の間というのがよく似合う。畳敷きで、部屋の中央に大きなテーブルが置かれている。  そのテーブルを挟んで男性が三人座っている。手前に座っている男性はうなだれ、その向かいに初老の男性と軽トラックを運転していた男性――刀磨が並んでいる。先客どころか、タイミングが悪い時に来てしまったようだ。 「あれ、もう起き上がって大丈夫なんですか?」  御子柴の言葉にうなだれていた男性は顔を上げ、御子柴を認めると座布団を外して土下座の格好を取る。 「ご迷惑おかけして、申し訳ありませんでした!」  畳に頭を擦り付けるようにして謝る男性を前に、初老の男性は腕組みをして御子柴に目を向ける。大体の事情は察しているが、念のため説明を求めているようだ。 「いえ、勢い余ってちょっと強くしちゃって。あげく軽トラックの荷台に転がしちゃって申し訳なかったです。頭上げてください」  言いながら御子柴は男性の前に腰を下ろし、麻緒にはテーブルの前を進める。その間に刀磨が座布団を持ってきて、テーブルの前――御子柴の隣――に置く。なんとなく声を出すのもはばかられ、感謝の言葉の代わりに頭を下げる。  頭を上げた男性は、御子柴を前にして居心地悪そうだ。何か問題を起こして、その処分を言い渡されるのを待っているように見える。 「元はと言えば私が悪いので。おかげで目が覚めました」 「何があったか覚えてます?」  麻緒が座布団の上に腰を下ろすのを待って、御子柴が男性に問う。男性は痛みにこらえるように目を閉じる。 「……刀です。あの黒い鞘に入って、柄も黒の。あれを手にして……気が付いたら軽トラックの荷台に転がっていました」
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