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「主任昇格おめでとう」
ガヤガヤと周囲の客の声が耳を滑っていく。
正直、だめかもしれないと思ったのだ。花田さんはフォローしてくれたし、二宮部長も一旦は受け入れてくれたが、悪目立ちしてしまったのではないかと心配だった。
安心が先に来て、力が抜けていく。背が椅子にトンとついて、息を吐いた。
「嬉しいよりも、ほっとしました」
「能力は元から問題ないんだから当然だ」
主任昇格という報を聞いても浮かない顔をしている私を安心させるように、花田さんのフォローが入る。
「こんなに嫌われてるのに、大丈夫でしょうか」
うちの会社では主任に昇格するとチームリーダーのような役割を担うことになる。嫌がらせを受けている現状で、私がリーダーだとまとまるものもまとまらないのではないだろうか。
せっかく直談判までして昇格試験を受けることが出来て、合格したのに。期待される結果を出せなかったらどうしよう。なんて、まだ起きても無い未来を想像して不安がって、バカみたいだな。花田さんが気を抜いた顔をしてるから、私まで張っていた気が緩んでしまったのかもしれない。せき止めていた不安が決壊するようにあふれ出てしまう。
せっかく花田さんにおめでとうと言ってもらったのに、暗い顔を返してしまう自分が情けなくてごまかすようにヘラリと笑いながら花田さんの反応を伺ってしまった。
きっと花田さんの視線は情けないものを見るようなものに染まっているだろうと思ったのに。予想に反して、その視線は真剣だった。
「森田なら大丈夫だよ。俺は知ってる」
「知ってるって、何をですか」
誤魔化すように作っていた笑顔が剥がれ落ちていく。
「お前はいい奴だってこと。───それに」
当然のことのように認めている、という言葉を貰えてじわりと泣きそうになる。
なんでこんなに花田さんは優しくしてくれるんだろうか。
その答えが、もしかしたら続くのではと気になって耳を近づける。
「……それに、お前の勝利条件は土下座だったか。やや厳しいが、勝機は見える」
「…………はい?」
真剣な顔で何を言っているのかと変な間がうまれた。
「……それに、の続きはどこにいったんですか?」
「俺に恩返しするために強くなると宣言された時はしびれたもんな」
花田さんはいつの間にか酔っていたのか、少し頭が揺れていた。しびれているのはアルコールが原因ではないだろうか。
「頼もしい部下がいて嬉しいよ」
「私は心配です」
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