お家に帰ろう!

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お家に帰ろう!

 僕はルンルン気分で図書館の中を歩き回った。動く本棚、束ねられたノート、辞書よりも分厚い本、外国語の本なんかがたくさんあって、全部見て回るだけでも一日以上はかかりそうだった。『個人研究室』と書かれた鏡張りの個室なんかもたくさんあった。不思議なところだ。  ふと壁の時計を見ると、もうおやつの時間だった。  もう少しここにいたかったけど、僕は資料室に戻ることにした。  涼しくて静かな図書館から一変、蝉の喧噪と強い日差しにまた包まれた。  資料室までの行き方はもう覚えた。長く日差しの下を歩きたくなかったから、僕は資料室まで走って向かった。  スリッパに履き替えて3階に行くと、部屋の中から話し声が聞こえた。  僕はゆっくり扉を開けて、中に入った。 「ただいま~」  話していたのはおじさんと、僕の知らない女の人だった。 「じゃあ近いうちに行ってみるよ・・・・・・。あ、お帰り藍君」  僕の視線に気が付いたおじさんが「こっちこっち」と手招きした。 「事情があってこの子も同伴するけどいいかい?」  僕をその女の人に紹介する。 「え、はい。大丈夫ですけど・・・・・・。先生のお、お子さんですか?」  なにやら困惑した顔で女の人が訊く。 「いや、甥っ子だよ。夏休みの間だけ預かっていてね」 「あら、甥っ子さんでしたか」 「黒澤藍です! よろしくお願いします!」  僕は驚いている様子の女の人に挨拶した。 「こちらこそよろしくお願いしますね。では先生、私はこの辺で失礼いたします」  女の人はそう言って資料室から出て行った。 「何かあったの?」  僕が訊くと、おじさんはニヤッと笑って僕に言った。 「藍君、お化けを見に行きたくはないかい?」  あまりにも魅力的なその誘いに一も二もなく「行きたい!」と僕は答えた。  ──そうして、おじさんに連れられたその先で、僕たちはあの『雷獣』を捕まえることになる。 「こういうことってよくあるの?」  おじさんがハクビシンを業者に渡して、僕たちはお姉さんの家を出た。  暗くなってきた道を車で進む。 「そうだね・・・・・・たまにあるよ。数年前には呪いの込められた箱を壊したり、『呪い』の正体を明かす手伝いをしたりもしたね」 「呪い?」 「うん。でも結局それは偽物の呪いで、人を呪う事なんてできない物だったんだ」 「それも学生の人が相談しに来たの?」 「そうだよ」 「おじさんはみんなに頼りにされてるんだね。克実さんの言ってたとおりだ」 「おや、克実君に会ったのかい?」 「会ったよ! ソファとテレビを持って歩いてた! 図書館まで連れて行ってもらったんだ!」 「そうかい。彼は力持ちだったろう?」 「うん」 「彼が前に言った凄い力を持つ学生だよ。昔だったら怪力譚の主人公か、昔話の悪役だっただろうね」 「悪役? あんなに優しいのに?」 「うん。例えば・・・・・・そうだな。鬼、といったらわかるかな? 怪力を持ち、金棒を振り回しては人や牛を食べる妖怪だ」 「知ってる!」 「そのように『人の力を超えた力』を持つ存在を、昔の人は恐れたんだ。理解できないからね。そして恐れたその怪力がいい方になれば英雄、悪い方に行けば化け物扱いされる。勿論人柄もあるだろうけど、見た目のインパクトには敵わないからね」 「それなら克実さんは優しいし見た目も怖くないから大丈夫だね」 「そうだね。彼はその力で人を助けることにしているし、自分だけのためには使いたがらない」 「へ~」 「あと、その力を使うとエネルギーを消費して、お腹が凄く空くらしいんだ」 「それは大変だね」 「空腹で倒れた彼を担いで帰ることも何度かあったなあ」  おじさんはそう言って笑った。助手席からおじさんの顔を見る。  夕闇のせいか、サングラスの下の目は見えなかった。  
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