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「ディラン!」
「アリシア!」
薄暗い森の中で、二人はお互い、強く抱き合いました。
「アリシア…大丈夫だったかい?家の人達にはみつからなかった?」
「ええ、大丈夫よ。
誰も私が出掛けたことに気付いてないわ。」
アリシアは広大な領土を持つ貴族の娘、それに引き換え、ディランは貧しい一介の農夫です。
二人はとても愛し合っていましたが、周りがそれを許さないであろうことは二人にもわかっていました。
ですから、二人はまだ一番鶏さえ鳴かないような早朝や、薄暗い夜にしか会えないのです。
二人は月明かりの射し込む岩の上に並んで腰掛けました。
「今日はピアノの練習日でね。
また一曲、弾ける曲が増えたのよ。」
「それは良かった。いつか君の弾くピアノ、聴いてみたいな。」
「それまでに、練習を積んでもっとうまくなるわ!」
他愛ない会話を交わすだけで、二人の心は満たされるのでした。
「あ、私…そろそろ戻らなきゃ…!」
アリシアは懐中時計を見て、立ち上がりました。
「じゃあ、また明日の朝にね。気を付けて帰るんだよ。」
「ディラン…また明日ね!」
アリシアは駆け出し、ディランは彼女の後ろ姿を名残り惜しそうに見送りました。
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