とある惑星の神殺し

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とある惑星の神殺し

ここはとある惑星。 200年に一度訪れる大彗星を神として崇める、美しい種族の住む星。 地球(アー)から遠く離れた、天の川銀河の縁。 文明を持つ惑星、イー星。 植民計画として、地球からシオ派遣団が降り立って40年が経つ。 今日は、この星で生まれた最初の地球(アー)人、キルエ・シオの18歳の誕生日だった。 「キルエ、18歳となったのだってね。  おめでとう」 朝一番。 リャカェがそう言って微笑む。 彼女はイー人。 同じ年の生まれで、何かとキルエの世話を焼いてくれる存在だ。 「アー人の習性は分からないな。  生まれた日をわざわざ記録して祝うなんて」 そう言って文句を言うのはハシュロゥ。 リャカェの友人であり、キルエと同じ施設で育った。 派遣団団長の息子であるキルエに、最近何かと突っかかってくる。 「そういえば、もうすぐマオ=イァリでしょ?」 マオ=イァリというのは、200日に一度の流星群のことだ。 この時期に合わせた祭りもある。 「今年も一緒に、流星群を観ようよ」 「私はいい」 ハシュロゥが真っ先に断る。 「キルエは?」 「私は…」 星空を見上げる。 「そういえば今年は、  マオ=ワィミェが来るんじゃないか?」 「えっ!」 リャカェは首から下げた飾りに触れる。 「マオ=ワィミェが?!」 彼女の首にかかっているのは、この星の神マオ=ワィミェの姿を模した、金色の房だ。 「そのはず」 キルエは手に持った端末で計算する。 それをハシュロゥは、横目でじっと見ている。 「そうだよ。  ちょうど200年の周期だ」 「マオ=ワィミェを、  この目で見られるなんて…!」 首飾りに口付けをする。 この星の祈りの仕草だ。 「あんなの神でも何でもない。  別にありがたくもない」 ハシュロゥは辟易した顔でひとり、先に歩く。 彼は首飾りをつけていない。 昔はつけていたはずだ。 金の狼の毛の房と、一筋の青く染めた羽根。 いつからか、つけることをやめていた。 マオ=ワィミェとは、200年周期でこの恒星系を周回する彗星だ。 イー人たちは、それを神と崇めてきた。 人々の絶望にマオ=ワィミェは姿を見せ、その黄金の尾で絶望を振り払い、青い涙を残して去っていく。 それが、彼らの遺伝子記憶に刻まれた、マオ=ワィミェだった。 地球(アー)人たちが、その信仰を破壊した。 「憎む人がいるのも分かるよ。  父さんは結局、  この星を植民地にするためにきたんだ。  地球(アー)人たちが生きるために、  この星にあった文化も、価値も壊した。  生き方の全てに干渉した」 リャカェもハシュロゥも。 生まれた時から。 「私にとってはイー星が故郷で、  でも、イー人にもなれないんだ」 「キルエ」 「ハシュロゥも、  私を憎んでいるのかな。  アー人だから。  エドルド・シオの息子だから」 ずっと一緒に育てられた。 でも、もう18歳。 何も知らない無邪気な子どものままでは、いられないのだろう。
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