3.あの頃と同じこと、違うこと。***

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「私、今回の失恋でよくわかったの。いつか理想の人に巡り合えるなんて夢を見るのはもうやめる。だからといって結婚のために時間や労力を割く気もないわ。今は仕事が一番だもの。このままだったら私、一生独り身だと思う。それも悪くはないと思っていたけれど、親に心配を掛けたくないという気持ちもあるの。もし圭吾お兄ちゃんと結婚したら、それが解消する上に大好きな美奈子ママに元気になってもらえる。まさに完璧なプランだわ」  決して目を逸らさずひと言ひと言はっきりと言う。彼はしばらくの間黙っていたが、ため息をついてから口を開いた。 「香ちゃんの気持ちはよくわかった」  低い声ではっきりとそう言った彼に、「本当⁉」と喜んだのもつかの間。 「じゃあ俺とできるんだよな?」 「できる?」 「セックスだ」 「セッ!」  赤裸々な言葉に、一瞬で頬が上気した。そんな私とは裏腹に、お兄ちゃんは顔色一つ変えず、至って真面目な顔つきだ。 「民法第七七〇条第一項には、不貞行為は離婚の理由になると明示してある。仮にも弁護士の自分が法を侵すようなことはできないし、そうでなくともパートナー以外と関係を持つ気はない」  はっきりとそう言い切られ、ぐっと言葉に詰まった。  夫婦になるというのはそういうことなのだ。そんな当たり前のことをすっかり失念していた私に、彼は追い打ちをかける。
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