真昼の月

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『もしも月へ行けたなら、僕はきっと地球【ここ】へは帰らないだろう……』 学校の屋上にて、真昼に浮かぶ月を見ながら、そんな事を考えた。 「なんで?」 そう告げたのは、僕の隣に立つ彼だった。 「地球【ここ】は少し煩わしいから」 小さく溜め息交じりに呟くと、彼は眉を潜めて言った。 「でも、月じゃ生きてはいけないさっ」 視線を反らして俯く彼に、僕は呆れながら告げる。 「別に生きていく必要はないよ。そのまま死んだって構わない。僕はただ、誰も居ない空間で青い地球を眺めていたいだけだ」 空を見上げて月を見た。薄くて白色の欠けた月は、先程と全く変わらず其処に佇んでいる。 「きっと静かなんだろうなぁ……」 そう呟いたら、不意に腕を掴まれた。 「きっとつまらない」 彼は不貞腐れた子供の様にそう告げた。僕はその言葉に少しムッとする。 「理解らないだろ?」「分かるね」「なんでさ?」「だって、なにも無いじゃん!」「クレーターはある!」「あんなのただの穴だよ!」「うさぎがいるかもね」「そんなの迷信だ!」「逆に何も無いならそれはそれで良いじゃんか?」「良くない!!」 売り言葉に買い言葉で言い争っていると、彼は不意に僕を睨んだ。 「な、なんだよ……?」 唇を噛み締めながら、僕の腕を強く握り締める彼に怯むと、彼は微かな声で弱々しく告げた。 「だって……君が彼処へ行ったら、俺が寂しいじゃんか」 それから彼は思いっきり僕に抱き着き、啜り泣く声でボソリと告げる。 「行くなら一緒に連れてけ阿呆。俺を独りにするなよなぁ……」 泣きつく彼に僕は困り果て、仕方なく彼の背中を擦ってやった。 「わかったわかった。もう、月に行くなんて言わないから泣き止めよ?」 諦めを口にすると、彼は弱々しく『本当か?』と訊ねる。 「あぁ。行くとしてもお前も連れて行ってやるから安心しろって!」 そう付け足せば、彼は泣き腫らした赤い眼を細めて微かに笑った。 「約束だからなっ?」 指切りをして約束を交わした後。届かぬ夢だと、僕は地上の兎に引き留められながら、遠い月を見上げた。 終
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