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希花(まれげ)
緩やかに流るる川と、青く伸びた草を見下す様土手に腰を下ろす。ちらちらと陽が乱反射し金色に光る。その鋭さに目を細めて一つ。
「今日も天気だなァ」
濁りの無い青空には純白の入道雲が映える。白い太陽はその業火で地表を熱し、そこから湧き上がる熱気で汗が滲んだ。額に浮く汗を袖で拭い濃紺の扇子で風を送る。
幾らかそうしていると、視界の端で何かが僅かに動いた。
「何だ? お前も一人ぼっちか? ははは。可哀想な奴だ」
真黒の蟻が草履を伝い登って来る。ふらふらと歩を進めるその姿はさながら迷子の様で、小さく笑いが込み上げた。
右足首に人差し指を添え彼を掬い上げる。何が起きたかと彷徨う脚と触角の、その感触が妙に懐かしい。
「何処から来たか分かんねェけど、早く帰れよ」
此処という確かな証拠は無いが、度々蟻が出て来る青草達の根元に彼を放り出した。
小さな躰は青草の中に直ぐに消え、私はまた独り。
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