おれはコイに恋をする

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「待たせたな、俺の愛する“コイ”達」  (かなで)は別荘の地下にある部屋に入り、色とりどりのコイを眺めながらうっとりと呟く。人工的に作られた小さな池の水面に映る彼の眼差しは光を帯びていて、まるで無邪気な幼児のようだった。  気持ち悪いほどの笑みを浮かべた奏は、大量のコイを見渡しながらスマホをジーンズのポケットから取り出し、カメラアプリを作動すると写真を一枚、二枚、三枚と撮った。  そして自分に向けてか、はたまた何処かの誰かにか。独り言か否かの判別も出来ないくらいか細い声で、奏は語りだした。 「ここには沢山のコイが居るが……その中でも君は新入りだよな、シツ。君と出会ったことはきっと偶然ではない。必然だ。君をショップで見つけたあの瞬間を忘れやしない。君の華奢な容姿が目に入ったとき、俺の身体を稲妻が駆け抜けた!」  奏は顔を両手で覆う。それから突如、大粒の涙を流し始めた。 「嗚呼、この趣味をスタートしてから一年間、ようやく俺好みの奇麗なコイになる子を見つけた! そう思ったよ。そして即座に君を購入して、育成して、現在に至る。予想的中だ。君こそが俺がずっと求めていたコイだ!」  早口で、かつ殆ど息継ぎ無しで愛を語った奏は、また気色悪い笑みを浮かべ、とあるコイをまじまじと見つめた。 「君……名前何だっけ。そうだ、ハッカだ。君のチャームポイントはその“身体の白さ”だよね。君より美しい白はこの世に存在しないよ、きっと。……いや、シツ! 俺はハッカに浮気している訳じゃないんだ、信じてくれぇ!」  恐らく、奏の摩訶不思議な行動を目にすれば、人類の九割九分九厘がドン引きするだろう。今もほら、彼はコイに対して許しを請いている。コイに謝罪したってお許しの声は無いし、そもそも会話のキャッチボールが出来る訳でもないのに。
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