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ある日曜日
日曜日
富田瑠美は、朝7時に鳴ったインターホンで目が覚めた。
あくびをしながらモニターを確認すると、思った通りの人物が写し出されていて、瑠美は大きなため息をついた。
「おはようございます、お嬢様」
瑠美が玄関のドアを開けると、スーツ姿の老紳士が頭を下げていた。
「ちょっと…」
瑠美は慌てて老紳士の腕を取り、部屋の中へと引き込んだ。
「湊さん、それはやめてって、前にも言ったでしょう?隣に聞こえちゃう」
「申し訳ありません」
湊は玄関で再び頭を下げた。
「でも、ここまでどうやって入ったの?いつもは、エントランスから呼び出すのに」
「先週お伺いした折に、正面玄関の指紋認証を登録していただきましたので、スムーズに参ることができました。お恥ずかしながら、年をとると、どうも少しせっかちになるようでして、少しでも速くお嬢様のお部屋に伺いたいと思ってしまうのです」
「え?どういう事?それって、まさか、管理人さんに私のことを話したりしてないよね?」
「はい。お話いたしましたので、登録していただけました」
「ちょっと…やめてよ。勝手に入らないって約束したじゃない」
「もちろんでございます。ですから、インターホンを鳴らしました。お嬢様、相変わらずの朝寝坊ですね」
「だって、今日は日曜日だよ?」
失礼いたしますと言いながら、湊は部屋に上がり込み、台所へと入った。
あっ、と瑠美は天を仰いだ。流しには、昨日使った皿やフライパンが、そのまま置いてあったのだ。
「お嬢様、昨夜はお疲れだったのですか?」
湊は皿を洗いながら、部屋の中を見渡した。洗濯物が床に散乱し、その中に本が何冊も積み重なっていた。
「そうそう。遅くまで、判例を調べていたから。湊さん、いいよ、後で自分でするから」
「お嬢様。お嬢様が後でするとおっしゃって、おやりになったためしはありませんよ」
「昔の話でしょう?」
「いえ、そうでもございません」
「湊さん、今日はお説教をしにきたの?」
「いいえ。今日は、大事なお話があって参りました。早く身支度を整えてきてくださいませ。朝食をご準備致しますので」
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