言えない名前

1/18
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
* (神様、どうか…どうか、マリアが元気になりますように…) 両手を組み、一心に祈りながらも、アンソニーはその願いが望みの薄いものだということに気付いていた。 (マリア…) ついさっき会ったばかりのマリアの顔が、アンソニーの脳裏に映し出される。 薄暗い病室のベッドに横たわり、まぶたを開くことさえ辛そうなマリアの顔が… (なぜ、マリアが… 素直で無邪気で親切で、誰からも好かれるあのマリアが、どうしてあんな病に…) 込み上げる憤りに、アンソニーは唇をきつく噛んだ。 元気だった彼女が、体調が悪いと言い出したのは、一年近く前のことだった。 その時は誰もそれほど深刻なことは考えてはいなかった。 季節の変わり目で、少し体調を崩したのだろう…その程度の認識だった。 しかし、マリアの体調は少しも良くならないばかりか、日を追うごとに悪化していったのだ。 半年も経った頃には、もうベッドから離れることは出来なくなっていた。 マリアの恋人だったアンソニーは、毎日欠かさず彼女を見舞った。 いつも、小さな花束を手にして、暇さえあればマリアの元を訪れた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!