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教会を出たアンソニーの足取りは重い。
(マリア……)
なかなか気持ちを切り替えられず、痛む胸を抱えて歩くアンソニーの瞳に、黒いものが動くのが映った。
「あ、危ない!」
アンソニーは反射的に身を翻し、馬車の前に飛び出した。
「馬鹿野郎!」
「す、すみません!」
車輪が軋む音と罵声…
そして、人々のざわめき…
そんな中、馬車道に横たわったアンソニーは、黒いものを拾い上げてゆっくりと立ち上がった。
「……大丈夫だったか?」
立ち上がったアンソニーは、自分の身体についた土を払うより早く、黒い毛並みを優しくなでた。
「痛い所はないか?
あ、いてっ…怪我をしたのは僕の方みたいだね。
ともかく、君が無事で良かったよ。」
アンソニーは、子供にでも話すようにそう言うと、黒い猫を抱いたまま、おもむろに歩き始めた。
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