橙バラの花言葉は絆

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橙バラの花言葉は絆

「うわぁ……きれいなバラ。おれかすみ草好きなんです」  真琴がうっとりとブーケを眺める。もちろん清楚なかすみ草は真琴をイメージした。  鷹城は立ち上がってテーブルに向かう。 「さて、飯にしよう。デザートもあるぜ」 「すごい、ありがとうございますっ」  鷹城は炊きたてのご飯を盛り、椀に湯を注いだ。  二人は向かい合って食卓につく。目ざとい真琴はすぐにランチョンマットとしょう油皿に気がついた。 「これも新しい。しかもパンダ。かわいいなあ」 「その皿ん中にしょう油入れてみろ」 「? 分かりました」  と素直に小皿にしょう油を垂らした。すると、にっこり笑ったパンダが浮き上がる。  それを見た途端、真琴は目を丸くして嬉しそうな声を上げた。 「うわっパンダだ! すごいっ、可愛い!」 「気に入ったか?」 「はい! 嬉しいです。大事にします」  溌剌(はつらつ)とした満面の笑みにこっちまでつられて心が弾む。 (買ってきて良かった)  と目を細めて真琴を見詰めた。  それから合掌をして二人は食事を始めた。 「角煮おいしいです。柔らかい。おネギがとろとろ~」 「良かった。しょっぱくないか?」 「全然! ご飯に合ってちょうどいいです」  真琴は他の料理にも箸を伸ばす。 「笹かまぼこ、柔らかくて美味しいです。まるでお刺身みたい。お味噌汁も、インスタントでも充分いけますね。この輪になったお麩(ふ)、好きです」  目尻を下げて味わう真琴は本当に可愛い。この表情が見えるならいつでもご飯を作ってしまいそうだ。  真琴は自分では意識していないようだが、地味に大食いで、ぱくぱくとなんでも食べる。  特に好きなのはこってりアンドがっつり系だ。ラーメン屋に行くと、「背脂マシマシ、チャーシューマシマシ、にんにくマシマシ」なんて昭和生まれの鷹城からしたら呪文のような言葉を使う。  自分も肉や脂身は好きなのだが、三十を過ぎてめっぽう弱くなった。現在は〈昔ながらの中華そば〉系しか受け付けない鷹城にとって、かなり羨ましい。 (食べたい、と食べられる、は別物……)  今日だって、角煮をほんの二、三切れ摘まんだだけで、胃が勝手に満足する。残りを真琴にあげて、自分はタレでご飯を掻き込んだ。  食事を終えると、鷹城は真琴に買っておいたパンダの湯飲みをプレゼントした。  真琴はこれも大変喜び、すぐに緑茶を淹れてくれる。二人でソファに移動し、まったりとテレビを見ながら、まだほんのりと暖かいたい焼きをぱくついた。 「ん。うまい」  鷹城はカスタード。安定の味だ。一方真琴はずんだを選んだ。 「ふふふ、このあまじょっぱい感じ、最高です」 「たい焼きも、タコ焼きみたいに、うちで作れたらいいのにな」 「あれは買って食べるからおいしいんですよ」  とにっこりと微笑む。  その柔らかな顔を見て、鷹城は優しく目を細めた。  以前に比べて、真琴は格段に表情が豊かになった。よく笑うし、顔つきがくるくる変わる。逆に、負の感情も表すのが上手くなってきたので、ささいなことで怒ったり、ケンカをしたりする。けれどそのあとでどちらからともなく謝り、仲直りのキスをするのだ。  そうした日常の積み重ねが、二人が愛情を育んでいる確かな証に思えた。  肩を並べて緑茶をすすりながら、鷹城は穏やかな気持ちでつぶやく。 「なんか俺たち熟年夫婦みてえだな」  「ですね」 「お前といると落ち着く。でも、一応できたてほやほやのカップルなんだけどな」
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