36.〝俺〟を欲しがれよ【Side:長谷川 将継】

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36.〝俺〟を欲しがれよ【Side:長谷川 将継】

 せっかく私の知り合いに会わないため、デリバリーピザを頼んだと言うのに。  どうやら配達員の男――武川(たけかわ)とか言ったか?――が深月(みづき)の好もしくない知り合いだったらしい。  最初は友人か何かかな?と思って静観していた私だったけれど、どうにも相手の口調に悪意を感じて。  深月が嫌がってんのにしきりに〝先生〟とやらに私とのことを言い付けてやるとほのめかして(はばか)らないそのスタンスは、もはや悪意以外の何物でもない。  言わないで欲しいと懇願(こんがん)する深月の意志表示を無視して、あたかもそうすることこそが〝キミのためだ〟と言わんばかりの口振りが、そばで聞いていて死ぬほど腹立たしく感じられて。 (こんなん、いじめと変わんねぇだろ)  そう判断した私は、深月と武川の間へ入ることにした。  無駄口叩いてる暇があったら、さっさとピザを渡して帰りやがれ!と言ってやりたいところだったが、深月の立場もある。  なるべく穏便(おんびん)にお引き取り願おう。  そう思ったのに――。  ピザを渡す際、わざとらしく手に触れてこられて。  それだけでも不愉快だったのに、そのことに動揺した深月を挑発するように、「美青年、顔色悪いけど……、何か変じゃん? 俺から先生の耳に入れといてやるよ。明日病院だし」と意地悪く続けられては、さすがに波風を立てずにはいられなくなった。  そもそも、だ。  深月は武川のことをずっと〝武川さん〟と名前呼びしているのにコイツはどうだ。 (美青年、美青年って……深月の名前は十六夜(いざよい) 深月(みづき)だろ)  自分以外の男が深月を下の名(ファーストネーム)で呼ぶのは気に入らないが、大人として〝苗字にさん付け〟くらい出来ねぇのかよ?と腹立たしさが募る。
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