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私の大事な深月のことを、彼の持つ固有名詞で呼ばない武川の姿勢は、まるで深月を〝美青年〟という綺麗なお人形さんとしか見ていないような口ぶりに思えて。
そのことが私を更に苛つかせた。
(コイツ、深月にも心がある一人の人間だって思ってねぇだろ)
だから酷いことをしても平気でへらへらと笑っていられるんだろう。
そう思い至った瞬間、スッと肚の奥が冷たく凍てついていくのを感じた。
「兄ちゃん」
(だったら私もコイツのことを名前で呼んでやる必要なんてねぇよな?)
そう思いながら呼び掛けた声は、自分でも分かるぐらい冷え冷えとしたもので――。
そばにいた深月がビクッと小さく身体を震わせたのが分かった。
(ごめんな、深月。お前を怖がらせる気はねぇんだが……ちっと堪えてくれ)
そう心の中で深月に謝罪しながら、私は目の前の無粋な男に牽制を続ける。
――深月を泣かせるような真似をしてみろ。俺が黙ってねぇからな?
言外にそう含めて侮辱するような発言はするなと釘を刺したのだが。
私の威嚇から逃げるように最後までなっていない口調のままドアの外へ消え去って行った武川の後姿を見て、小さく吐息を落とさずにはいられない。
(ああいう輩は絶対喉元過ぎちまえば同じことやらかすんだよな。っちゅーよりむしろ……)
私は伊達に長く生きてないし、社長なんて難儀なものをやっているわけでもない。
これでも人を見る目はあるつもりだ。
口の軽い人間と言うのは、自分が見知ったことを人に話したいという衝動を抑えられない生き物だ。
それも、下手すると自分に都合よく尾鰭をつけるのも忘れない。
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