強敵

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 今、玄関で玲緒奈さんを出迎えている。  緩くパーマをかけたミディアムヘアで前髪を横に流す玲緒奈さんは、いつもと違ってただの美人なアラフォー女性だ。  玲緒奈さんは「暑いね」と言ってジャケットを脱いだが、ノースリーブの袖から伸びる鍛えられた上腕三頭筋が見事だと、素直に思った。  身長は一メートル七十二センチでネイビーのパンツスーツを着ている。ヒールを履いて颯爽と歩く姿は格好いいと思っているが、今日は仕事の時に見せる狂犬の親玉でもなく、松永家に集まった時の長男の嫁の顔でもなく、俺が初めて見る顔をしている。方向性としては、初めて玲緒奈さんに会った時と雰囲気が同じだな、と思った。  リビングに通された玲緒奈さんは、お仏壇にお参りを済ませた後にダイニングテーブルの席に着いた。  俺は優衣香からメロンとアイスティーを乗せたトレーを受け取り、玲緒奈さんにお出しすると、玲緒奈さんは俺を優しい笑顔で見ていた。それを不思議に思って顔を見ると、玲緒奈さんの目に涙が浮かんでいた。  天変地異の前触れかな、と思ったが、玲緒奈さんは俺が優衣香の隣にいる事が嬉しいと言って、涙が一筋、頬を伝った。  ハンカチで涙を拭う玲緒奈さんの話を優衣香と聞いていたが、俺が知らなかった事が次々と飛び出して、俺は何とも言えない気持ちになった。  母や玲緒奈さんだけじゃなく、兄ちゃんもチンパンジー須藤も優衣香と頻繁に会っているだなんて、ぼく知らなかったよ。 「敬ちゃん、別れた彼女がお門違いの署に来て暴れた事があったんだってね」 「…………」 「彼女に嘘をついてたの?」  大好きな優衣ちゃんに半年ぶりに会えたのに、どうしてぼくはこんなにしょんぼりしているのだろうか。  天変地異はぼくだけに起きたみたいだ。
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