処刑

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処刑

 (さい)詩夏(しか)蓮月(れんげつ)国の玉座の間に入ったのは、その日が初めてだった。  役人や宦官が五十人ほど詰めかけているにもかかわらず、まだまだ余裕のある広さ。  壁にはこの国の創生譚が、天井には天宮図が、砕いた瑠璃や緑青、辰砂などを惜しみなく使って描かれている。  けれど、詩夏にその美しさを愛でている余裕はなかった。  なぜなら、詩夏は今から死罪を言い渡されるところだったからだ。  玉座の間の奥に設えられた豪奢な椅子。そこに座っているのは蓮月国皇帝である蓮浩然(こうねん)、その隣の繊細な意匠の椅子に座すのは皇后、珠蘭(しゅらん)だ。  珠蘭が真っ白な手を上げて、ざわめく室内を制する。  その手の甲に、紅い痣のような紋様が浮かんでいるのが見えた。この国に豊穣を齎す唯一の存在——『連理の姫』である証、『比翼の印』だ。  瞬く間に室が静まり返ると、珠蘭は満足げに頷いて口を開いた。
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