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「鈴さんより、お二人に向けてのお手紙をいただいております。
鈴さん、どうぞお願いします」
司会者のアナウンスに従って、鈴ちゃんが客席から立ち上がった。
事前に聞いていない、完全なるサプライズで私と葵さんは顔を見合わせる。
マイクの前に立ち、手紙を広げて。
大きく息を吸い込むと、鈴ちゃんは手紙を読み始めた。
「お父さん、天音ちゃん。結婚おめでとうございます。
お父さんは、部屋の掃除が苦手だしホットケーキはいつも焦がすし、けっこうテキトーなところもあるけど、いつも私のことをいちばんに考えてくれる人です。
いつもははずかしくて素直にいえないけど、私はお父さんのことが大好きです。
だからお母さんがいなくても、お父さんがいれば……ふたりで暮らしていければそれでいいって思ってました」
本人の利発さを表すように、ハキハキとよく通る声。
「だけど、天音ちゃんと会って……天音ちゃんは、私にとっても優しくしてくれました。
美味しいご飯を作ってくれたり、一緒におやつを作ったり、誕生日のお祝いをしたり。
弟みたいに可愛いりーくんもいて、私はすぐにふたりが大好きになりました。
お父さんと天音ちゃんが好き同士になって、みんなでいっしょにいる時間がふえていくうちに家族ってこういうのをいうのかなって考えるようになって。
“お母さんみたい“とか“弟みたい“とか、みたいじゃなくて、本当の家族になりたいって思うようになりました」
鈴ちゃんが、にっと笑顔になる。
「だから、大好きなお父さんと天音ちゃんが結婚して、大好きなみんなで家族になる……今日は人生でいちばん最高で幸せな日です!
そしてこれからも、みんなでずっとずっと幸せです。
……ね、お父さん?」
「……当たり前だ。俺が幸せにするよ」
そう答えた葵さんの声は、少し震えていた。
「……最後に、ずっとずっと呼びたくて、でも今日まで我慢してた……」
鈴ちゃんは、真っ直ぐに私を見ながら言う。
「これからもずっと一緒にいようね
ーーーお母さん」
鈴ちゃんから、初めて呼ばれた「お母さん」だった。
その初めてを、鈴ちゃんは今日この時に言うと決めていたのだ。
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